LC/MS/MSのData Dependent Acquisitionにおける多価イオン設定に関する注意点

プロテオミクスの研究者の中には、LC/MS/MSData Dependent AcquisitionDDA)の機能を使ってプロダクトイオンを取得し、タンパク質の同定を行っている方が沢山いらっしゃると思います。分子量にも依りますが、ペプチドの多くはESIにおいて多価イオンを生成するために、DDAの設定で“多価イオンのみをプリカーサーイオンとして選択する”機能を使う場合が殆どです。

 

この機能は、高分解能質量分析計で用いられる場合が多く、多価イオンであるか否かをシステムが認識するのは、同位体ピークの分離挙動だと推測されます。即ち、図1に示すように同位体ピークのm/z間隔が、1価イオンは1、2価イオンは1/23価イオンは1/3になる事に依るものです。

 

多価イオン-1

図1 イオンの価数と同位体ピークの分離挙動

 

ここで、ESIでは試料成分の濃度が高い時、クラスターイオンが生成される事が知られています。そして問題になるのが、クラスターイオンの多価イオンも生成される事があると言うことです。

 

例えばペプチド混合物の中に、ノミナル質量500と言う低分子化合物が大量に含まれていて、イオン化されたとします。ここで、図2(a)に示す様にプロトン付加分子のみが観測されれば、全く問題はありません。しかし、図2(b)のように、2量体の2価イオンが1価イオンに重なって観測されると、システムはこのイオンをノミナル質量1,000の化合物の2価イオンであると誤認識してしまい、プロダクトイオンスペクトルを測定してしまいます。

多価イオン-2

図2 (a) 1価イオンの同位体パターン、(b) 二量体の2価イオンが重なったパターン

 

通常の低分子化合物の2量体の2価イオンからのプロダクトイオンスペクトルは、ペプチドとは似ても似つかないパターンになると思われるので、タンパク質データベースで検索しても何もヒットしてこないとは思いますが、排除するに越したことはないですね。同位体ピークの強度比を見れば一目瞭然なので、生データを見れば容易に排除できます。ソフトに100%頼る事なく、生データを見る癖をつける事をお勧めします。

 

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エムエス・ソリューションズ株式会社
代表取締役 髙橋 豊
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