LC/MSやGC/MSで得られるクロマトグラムの種類

今回は、LC/MSGC/MSにおいて、マススペクトルを取得するモードで測定した時に得られるクロマトグラムの種類について説明します。添付した図は、上から(a)TICC, (b)BPIC, (c)高強度のバックを除いたm/z範囲で作成したクロマトグラム、(d)ある成分イオンのm/z値を設定した抽出イオンクロマトグラム、を示しています。試料は天然物の抽出液です。

Chromatograms_Rev

 

TICC:全イオン電流クロマトグラム(total ion current chromatogram

少し前まではTIC(全イオンクロマトグラム、total ion chromatogram)と呼んでいましたが、2013年質量分析関連用語についてのIUPAC勧告に基づき、日本質量分析学会は用語集を改定し、全イオン電流クロマトグラムと呼ぶようになりました。TICは、測定するマススペクトル上に観測される全イオン強度の和を、時間軸に対してプロットした二次元チャートと言う定義でした。しかし、この二次元チャートの縦軸は、イオンの強度を直接プロットしている訳ではなく、イオンが検出部によって変換された後の電流値をプロットしているため、ionchromatogramの間に電流(current)が入ったと言う経緯があります。マススペクトルを取得するm/z範囲の下限値を小さく設定し過ぎると、バックグランドイオン強度が増加するため、TICCS/Nが低くなり、TICC上でピークが確認し難くなります。

GC/MSの場合、強度の高いバックグランドイオンは、H2O由来のm/z 18N2由来のm/z 28O2由来の32などが主であるため、マススペクトルの取得m/z範囲を35からに設定すると、S/Nの良いTICCが得られます。m/z 50~の設定にすると、CO2由来のm/z 44イオンも含まれないため、更にS/Nは良くなります。

一方LC/MSでは、移動相溶媒分子や環境から混入する不純物などに由来するイオンがm/z 400位まで、環境に依ってはそれ以上大きなm/z領域までバックグランドイオンが観測されます。バックグランドイオン強度を下げたいからと言って、マススペクトル取得のm/z範囲を400~とかに設定する訳にはいかないので(それ以下の低分子化合物が検出されないので)、LC/MSで得られるTICCは、どうしてもバックグランドイオン強度の高く、S/Nが悪くなってしまいます。プロテオミクスなど一部のアプリケーションでは、マススペクトル取得のm/z範囲の下限値を比較的高く設定する事は可能です。

 

BPIC:ベースピークイオンクロマトグラム(base peak ion chromatogram

取得される全てのマススペクトルにおいて、ベースピーク(最大強度ピーク)の強度を時間軸に対してプロットしたクロマトグラムです。BPICは、試料成分から生成したイオンがベースラインに常に存在するバックグランドイオンよりも高強度で検出された場合、バックグランドレベルの低い、解析し易いクロマトグラムになります。一方、上に示した図(b)では、ピークは観測されず、むしろマイナスピークが幾つか観測されています。LC/MSで溶媒に含まれる夾雑物等の影響によってバックグランドイオンレベルが高い場合、このようなBPICが得られます。

この時の測定データでは、バックグランドとしてm/z 371イオンが常時高強度で観測されていました。図(c)は、このm/z 371イオンを含めないように、その少し上m/z 375以上の範囲を指定して作成したクロマトグラムです。高強度のバックグランドイオンが含まれないクロマトグラムであるため、TICCでは観測されていない小さなピークまで見つける事が出来ます。ただし、このクロマトグラムでは、m/z 371より小さなイオンは含まれませんので、そのような低m/zイオンを含んで且つベースライン強度の低いクロマトグラムを得るためには、強度の高いバックグランドイオンを除いて狭い範囲(例えばm/z 100200, 200300など)でクロマトグラムを作成するのも有効です。最近の装置には、自動でピークを抽出してくれるソフトが付属している場合もあるので、そのようなソフトの機能を使うのも良いですが、自力でピークを探す方法も知っておいて損はありません。ちなみに、このように比較的広いm/z範囲を指定して作成したクロマトグラムは、以前はRICreconstructed ion chromatogram、再構成クロマトグラム)と呼んでいましたが、先の用語改正によって推奨されない用語になりました。現在では、このようなクロマトグラムは、(d)と同じEICが使われます。

(d)は、保持時間44分辺りでスライスデータ(マススペクトル)を作成し、そこにメインピークとして観測されていたイオンのm/z値を設定して作成した抽出イオンクロマトグラム(extracted ion chromatogram, EIC)です。LC/MS(GC/MS)のデータ解析でマススペクトルを作成したら、そこに観測されているイオンのm/z値でEICを作成するようにしましょう。顕著なイオンが複数あれば、それらが共溶出している未分離成分由来なのか、同じ成分由来なのかを判断する目安になるし、そのEICで他の保持時間にもピークがあれば、異性体が検出されている可能性もあります。

 

 

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エムエス・ソリューションズ株式会社
代表取締役 髙橋 豊
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