LC/MSで観測されるスパイクノイズ

LC/MSで得られたデータを見ていると、たまにスパイクノイズが含まれている事に気づきます。

この例は、その典型的なもので、正直ここまで多数のスパイクノイズが観測されるのは極稀だと思います。

スパイクノイズは、クロマトグラムとマススペクトルの両方に観測されますが、今回のはクロマトグラムの例です。

実際のデータを示します。

スパイクノイズ_クロマト

図1 クロマトグラム

 

スパイクノイズ_スペクトル

図2 マススペクトル

 

図1はクロマトグラム、図2はマススペクトルです。

クロマトグラムは3段に分かれていて、上段はTICC、中段はm/z 3〇〇イオンの抽出イオンクロマトグラム(EIC)、下段はm/z 352.8イオンのEICです。マススペクトルは、上段がm/z 3〇〇のEICピークトップ、下段はm/z 352.85のEICピークトップ(保持時間約8分)で、それぞれスライスデータを作成したものです。m/z 3〇〇については、事情により正確な数値を示せないので、1の位と十の位を〇で示しています。約300と見て頂いて良いです。小数点以下の数値についても同様です。

 

注目すべきポイントは以下の3つ。

1 クロマトグラムのピーク幅(サンプリングポイント)

2 ピーク本数

3 m/zの小数点以下の数値(mass defect値)

 

先ず1について、中段と下段のクロマトグラムのピーク幅を比較すると、中段は下段よりもピーク幅が数倍広い事が分かります。ピーク幅が広いと言うと、クロマトグラフィーをやっている人は”ブロードニング”と認識しがちですが、この場合はそうではなく下段のクロマトグラムピークが細すぎる、つまりはピークではなくスパイクノイズであると言う事になります。この事は、サンプリングポイントを確認すると、より明確になります。

 

クロマトグラムの中段と下段について、保持時間8分付近の拡大た図3に示します。

スパイクノイズ_クロマト-2

図3 横軸拡大クロマトグラム

 

上下2つのピークを比較すると明らかですが、上のピークはサンプリングポイントが10点程度あるのに対して、下は1ポイントのみです。カラムでの分離が非常にシャープで、それに対してマススペクトル取得スピードが遅い場合には、このようなサンプリングポイントが1点のみと言うクロマトグラムピークが得られる事もありますが、この場合には2つのイオンで比較していますので、下のEICが正常でない事は一目瞭然です。

 

2つ目のポイントであるピーク本数については、図1下段に示す様に、異様にピーク本数が多い事です。異性体の存在によって、同一m/zのEIC上に複数のピークが検出される事はありますが、ここまで多いのは不自然で、試料成分由来のピークとは考え難くノイズと判断できるポイントです。

 

3つ目のポイントであるは、m/zの小数点以下の数値です。これは、mass defect値として置き換えて考えても良いと思います。mass defect値については、以前ブログに書いていますのでご参照下さい。図2のマススペクトルに示したm/z 3〇〇と352に着目すると、両者とも300程度のm/z値に対して、小数点以下の数値が片や0.17で片や0.85で全く異なっています。mass defect値に関するブログでも書いた通り、通常の元素組成をもつ有機化合物であれば、約300に対して小数点以下の数値が85になる事はなく、この事からも、このイオンは試料由来のイオンではなく、ノイズの類である事が推測できます。ただし、今回のケースに対しては、同位体ピークが確認できますので、完全なノイズと言うよりは、バックグランドで観測されているイオンが何らかの理由により強度が不安定で、スパイクノイズとして観測されていると考えられます。

 

シグナルが不安定になる要因としては、移動相流量に対して脱溶媒温度が低かったり、ネブライザーガス流量が最適でなかったり、あるいはニードル電圧が高過ぎたり、と言う事が有り得ます。

 

このようなスパイクノイズの類のデータは、本来は出現しては困るデータ、所謂False positiveなデータになりますので、生データを確認して排除できるようにするとデータ解析のスキルアップにつながると思います。

 

 

 

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エムエス・ソリューションズ株式会社
代表取締役 髙橋 豊
E-mail: tyutaka@ms-solutions.jp
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