MS/MS(タンデム質量分析)の動作原理や用語 その2

 

前回、MS/MSの種類を5つ挙げ、その中のプロダクトイオン分析について解説しました。プロダクトイオン分析は、未知化合物等の定性に用いられますが、今日は、プロダクトイオン分析と装置の動作原理は非常に似ていて、定量分析に用いられる選択反応モニタリング(selected reaction monitoring, SRM)について解説します。

SRMは、分析現場においては、殆どはQqQ-MSを用いて行われる手法です。原理的には、Sector-MSIT-MSにおいても実行可能です。ここでは、主にQqQ-MSによるSRMについて、その動作や用語について整理してみたいと思います。

SRMについて解説する前に、SIM(選択イオンモニタリング, selected ion monitoring)について確認しておきましょう。SIMは、Q-MSなどの電圧走査タイプの質量分析計において、主に定量分析に用いられる測定法です。Q-MSにおける印加電圧とイオンの安定振動領域の関係を図1に示します。

 

QMS 安定振動領域

1 Q-MSにおける電圧走査とイオンの安定振動領域

 

直流電圧と高周波電圧の比を一定に保ちながら、電圧走査線に沿って連続的に変化させると、イオンはm/zの小さい順に四重極を通過して検出器に到達し、マススペクトルとして記録されます。この電圧を連続的に走査する測定法を、スキャン測定と言います。一方、この電圧走査線に沿った変化を、連続的ではなく段階的に変化させ、特定のm/zのイオンのみQを通過させて検出する方法がSIMです。定量分析では何故SIMが用いられるか? それは、1つのイオンがQを通過し検出器に到達する時間を、スキャン測定よりも長く保つ事が出来、結果として多くのイオンを検出する事が出来るためです。

1から分かる通り、Q-MSにおけるスキャン測定では、あるm/zのイオンがQを通過する瞬間、他のm/zのイオンはQを通過する事が出来ません。例えば、m/z 500までの範囲を0.5秒でスキャンしてマススペクトルを測定すると、1つのイオンがQを通過する(1つのイオンを検出する)時間は、1 ミリ秒です。一方SIMでは、指定したm/zのイオンだけを通過させるため、例えば1回の測定で50 成分測定(1成分につき1つのイオンを検出)し、サイクルタイムをスキャンと同じ0.5秒に設定すると、1つのイオンを検出する時間は10 ミリ秒となり、単純計算でスキャンのときより10倍のイオン量を検出出来る事になります。

LC/MSの定量分析においてSIMよりSRMの方が多用されている理由、それはSRMの選択性の高さに他なりません。Q-MSの質量分解能は低く、SIMではm/z 1の範囲に含まれるイオンがQを通過します。つまり、分析種と整数質量が同じで精密質量の異なる夾雑物や、LCカラムで分離出来ない他の成分が存在していると、それらが分析種と一緒に検出されてしまう事になります。

SRMにおけるQqQ-MSの動作を図2に示します。先ずQ1SIMの設定にして分析種由来の特定のm/zのイオンだけを通過させ、そのイオンをqCIDによって開裂させ、生成したプロダクトイオンの中から1つまたは複数のイオンのみをQ2を通過させて検出する。即ち、Q2Q1と同様SIMの動作をさせる事になる。

 

 SRM

2 QqQ-MSにおけるSRMの装置動作

 

前述したように、Q-MSは質量分解能が低いため、SIMでは選択性が十分でないケースがある。しかし、Q1を分析種イオンと一緒に通過してしまうイオンがあるとしても、開裂によって生成したプロダクトイオンのm/z値まで同一になる可能性は低くなります。3種類のアミノ酸混合物の、SIMSRMにより得られたクロマトグラムの比較を図3に示します。標準試薬の混合物であるため、夾雑成分などは少ない筈ですが、SIMではベースラインが高く、他のピークが高く検出されているクロマトグラムもあります。一方、SRMでは各アミノ酸のピークが明瞭に検出されています。

 

SIM&SRMクロマトグラム

3 (左)SIMと(右)SRMのクロマトグラム比較

 

SRMは、QqQ-MSを販売している各メーカーではMRM (multiple reaction monitoring)と呼んでる場合があります。現場でSRMによる定量分析を行っている分析者の方には、MRMの方が、馴染みが深いかも知れません。日本質量分析学会が発刊しているマススペクトロメトリー関係用語集の第三版では、MRMよりSRMの使用を推奨していました。しかし最近第四版が発刊され、その中では、「選択するプリカーサーイオンとプロダクトイオンのm/z値の組み合わせは一組とは限らない。複数の組み合わせを選択する選択反応モニタリングを特に多重反応モニタリング(multiple reaction monitoring, MRM)と呼ぶ」と記載されています1)

SRMと言う用語も複数チャンネルの使用を制限されてはいませんので、複数チャンネルの場合はMRMを使うと言う説明は少し苦しい気がします。個人的には、「どちらを使っても良い」という説明でも良いと思いました。

 

引用文献

マススペクトロメトリー関係用語集、日本質量分析学会用語委員会編集、p.84 (2020).

 

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エムエス・ソリューションズ株式会社
代表取締役 髙橋 豊
E-mail: tyutaka@ms-solutions.jp
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