質量分析コンサルティング

LC/MSで観測されるシロキサン系化合物由来のバックグランドイオン

LC/MSで頻繁に観測されるバックグランドイオンの代表例は、少し前のこのブログで書いた可塑剤由来のm/z 391, 413イオンですが、他にも色々と知られています。

その1つは、シロキサン由来のイオンです。そのマススペクトルを図1に示します。これは、可塑剤由来のイオンと同様、正イオン検出で観測されます。

シロキサン由来のマススペクトル

図1 シロキサン由来のバックグラウンドイオン

 

 

☆印を付けた4つのピークのm/z差は何れも約74であり、これは(CH3)3SiHに相当します。これらのピークがシロキサン即ちケイ素原子を複数個含む化合物由来である事が判断できる理由は、各ピークの同位体パターンです。最も強度の高いm/z 536イオンはモノアイソトピックピークであり、m/z 537, 538, 539は同位体イオンです。この同位体を含むピーク群は、非常に特徴的な同位体パターンを示しています。それは、m/z 536ピークに対して+1および+2の同位体ピークの相対強度が非常に高い事です。+1は約45%、+2は約30%を示しています。通常の有機化合物の構成元素はC, H, N, O, P, S, Clなどですが、+1の同位体ピーク強度に寄与する元素は主にC+2の同位体ピークの強度に寄与する元素はSClです。図のマススペクトルにおいて、+1の強度からC40個程度、また+2の強度から、Clであれば1個、Sであれば78個含まれている事になります。

 

このマススペクトルを測定したのは質量分解能約20,000の高分解能質量分析計であり、ロックマスは使用していませんが、まずまずの質量確度は得られています。その事は、前のブログにも書いたフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のプロトン付加分子がm/z 391.2865に観測されている事で分かります。このイオンの計算精密質量は391.2843ですから、実測値との誤差は0.0022 Da2.2 ppm)です。つまり、m/z 536イオンについても、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のイオンと同程度の質量確度で精密質量が観測されていると考えられます。

 

そこで、536.1666m/z値に対して、Cl1つ含むC, H, N, Oで、許容誤差5 ppmで組成推定を行うと、表1の様な結果が得られました。また、S510個含む元素候補で計算させた場合、表2の様になりました。

 

表1 C, H, N, O, Clで計算したm/z 536イオンの分子式

組成推定_mz536-1

 

表2 C, H, N, O, Sで計算したm/z 536イオンの分子式

組成推定_mz536-2

 

それぞれ、Cの数が最も多い候補の元素組成に対して同位体パターンをシミュレーションさせた結果を図2, 3に示します。実測スペクトルに対して+1の同位体ピーク強度が明らかに低い事が分かります。

同位体シミュレーション_含Cl

図2 C26H31NO9Clの同位体シミュレーションスペクトル

 

同位体シミュレーション_含S

図3 C21H46NS7の同位体シミュレーションスペクトル

 

次にSi510個含む元素候補で計算させた結果を表3に示します。

 

表3 C, H, N, O, Siで計算したm/z 536イオンの分子式

組成推定_mz536-3

このイオンがシロキサン由来であるとするなら、Nは含まれない筈ですが、別の測定においてこのイオンは[M+NH4]+である事が分かっていますので、下段の2つが候補としては有力で、それらの同位体シミュレーションは図4, 5のようになります。

同位体シミュレーション_含Si-1

図4 C14H46NO7Si7の同位体シミュレーションスペクトル

 

同位体シミュレーション_含Si-2

図5 C15H42NO10Si6の同位体シミュレーションスペクトル

 

 

4のパターンは、実測スペクトルにかなり近い事が分かりますが、+1, +2の同位体ピーク強度は実測スペクトルより低くなっています。

そこで、図4+1および+2の同位体ピークを拡大したものを図6, 7に示します。

同位体シミュレーション_含Si7_+1  同位体シミュレーション_含Si7_+2

図6 図4のm/z 537ピークの拡大図          図7 図4のm/z 538ピークの拡大図

 

これらは、異なる元素由来の同位体ピークであり、m/z 差からこれらのピークを分離するための質量分解能を計算すると100,000以上になりました。

今回の測定で使用した装置の質量分解能は約20,000ですから、これらの同位体ピークは分離されず1本に集約されてしまっている事になります。

因って、実測スペクトルの+1, +2の同位体ピーク強度が図4のシミュレーションよりも大きい事は妥当であると言えます。

 

これらの事から、図1のマススペクトルで観測されているm/z 536イオンの分子式はC14H46NO7Si7であると推測されます。

そして、その構造は、二重結合を1つもつ図8の様になると推測されます。同位体パターンから様々な知見が得られる事が分かりますね。

 

推定構造_シロキサン_mz536

図8 m/z 536イオンを与える化合物の推定構造

 

なお、これらのシロキサン由来のバックグラウンドイオンは、水/メタノールの移動相でメタノールリッチな条件でよく観測されます。

今までに沢山のクライアント様のLC-MS装置を見てきましたが、概ね80%程度の装置でこのバックグラウンドイオンが観測されているように思います。

 

 

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今年度最大のLC/MS/MSの仕事完了!

と~っても大きな企業様からご依頼頂いた、と~っても大きくて大変なLC/MS/MSのデータ解析の仕事。ここのところ掛かりっきりでしたが、本日無事に納品出来ました v(^_^)v

いやぁ~、頑張りました♪

かなりの部分、ソフトに助けて貰いましたが、

 

この仕事をやりつつも、朝はしっかり走れるように、なんと10日間程禁酒をしています。最近、お酒を飲むと朝起きるのが辛くて...

飲まないと朝スッキリ起きれるので、お酒を飲まない日が続いてしまった...

 

今日は飲まなくてもぐっすり眠れそうなので、明日は久しぶりにビールを飲みたいです。

 

 

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LC/MS用脱塩チューブ、アプリケーションノートのURL修正

数日前の事、締切ギリギリで今年の秋頃に発刊される予定のLC/MS専門書の原稿を書き終えました。

 

その中で、エムエス・ソリューションズで開発(オリジナルは非常勤スタッフの清水)しているLC/MS用オンライン脱塩チューブ”ソルナックチューブ”

の事について少しだけ書いたのですが、ホームページに張り付けてあるPDFファイルのURLを引用しようとしてコピペしたら、4行くらいに渡ってアルファベット

やら色々な記号が羅列されるおかしなURLになってしまいました。

 

こりゃーなんだ~? と思ってホームページの管理会社に問い合わせて少し調べて貰ったところ、

「参照先のPDFファイルに日本語が使われてませんか?」との事。

 

「使っているかも知れません」とわたし。

 

「半角英数字だけにして貰えば正常になると思います」と言われたので、取り合えずソルナックチューブ関連のアプリケーションノート

全て修正しました。今度は、まともなURLになりました。コンピューターで使うファイル名とかは、基本的には半角英数字にするって言うのは

以前から分かってはいたのですが、うっかりしていました。今後気を付けようと思いました。

 

ホームページ上の他の場所にもあるかも知れないので、随時修正していきます。

 

 

 

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LC/MSで観測される可塑剤由来のバックグランドイオン

LC/MSでは様々なバックグランドイオンが観測されます。正イオンESIで、m/z 391413のバックグランドイオンを見た事がある人は多いと思います。これに関して、私は大分前にブログに書いたつもりでいたのですが、検索しても出てこないので、どうやら書いたつもりになっていて実は書いていなかったようです。

 

正イオンESIで観測されるm/z 391イオンと413イオンは、同じ物質由来です。正体は、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)です。通称DOP。分子式はC24H38O4、ノミナル質量は390、モノアイソトピック質量は390.2770です。前述のm/z 391は、DOPのプロトン付加分子([M+H]+)、m/z 413はナトリウム付加イオン([M+Na]+)です。

 

DOPは可塑剤として用いられておりLC/MSにおいても、使用する容器などに含まれていると考えられます。

 

 

この両イオンをはじめとして、LC/MSで余りにも沢山のバックグラウンドイオンが高強度で観測される状況は好ましくありません。と言って、バックグランドイオンを完全にゼロにする事は不可能です。このブログで書いた様な状況は避けなければなりませんが、重要な事は、“気を付けつつも気にし過ぎない”だと思います。

 

 

私自身は、DOPのイオンは、装置のキャリブレーションの指標として積極的に使っています。私の仕事では、高分解能LC/MSを使う事が多いので、キャリブレーションはとても重要です。とは言え、無条件に毎回使う度にキャリブレーションするのではなく、今この装置がキャリブレーションを必要としている状況なのか否かを、DOPの様な既知のバックグランドイオンを見て判断しています。前述のDOPの分子式から、プロトン付加分子とナトリウム付加イオンの計算精密質量は、それぞれ391.2843, 413.2662となります。キャリブレーションする前の装置で、“両イオンの実測m/z値が計算値とどれ位ズレているか”で、その装置のキャリブレーションの必要性が判断できます。

 

以下は、お客様の装置で観測されたDOPのイオンですが、観測されているm/z値は、両方共理論値との誤差は約2 ppmですから、まずまずの状態である事が分かります。

DOP

 

 

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フリーランスの質量分析屋を目指す人と知り合った

先日、ある質量分析装置メーカーに勤めている知り合いから、私と同じ様にメーカーを退職して独立し、フリーランスの質量分析屋(コンサルタント)を目指している人がいるから会って話しをしてやって欲しいと頼まれました。

 

私に連絡するように伝えたところ、早速その方からメールが来て、少し前にお会いして話しをしてきました。職務経歴などを聞いたところ、LC/MSGC/MSの経験はかなり豊富と言う事と、独立して1人でやっていこうと思った動機が、私の場合ととても良く似ていると言う事から、その人の仕事に協力する事にしました。

 

少し前のブログに書きましたが、4月から受託分析の会社を新たに始めるので、その非常勤スタッフとして、主にLC/MSの分析を担当して頂く事にしました。その会社のオーナー(株主)にも、既に会って頂きました。また、その会社を始めると、私自身は今の仕事を少し減らさざるを得ないため、エムエス・ソリューションズに来たご依頼の一部を、その方にお願いする事も出来ると思って期待しています。

 

ただ、今の私の仕事は、LC-MS装置が使えたりメソッド開発が出来たりするだけでは全く不十分で、誰に対しても原理原則に基づいた正しい情報を論理的に説明できるだけの理論武装をしている必要があります。もちろん、豊富な経験も必要です。LC/MS分析士の過去問を少しやって頂きましたが、原理原則の部分がまだまだ足りていない事が分かりました。これから、頑張って勉強して貰います。私と同じレベルで仕事が出来るようになるのは、当分先かな。

 

私の仕事って、完全にバッティングする競合相手がいない分、仕事そのものが業界に認識されていないと言う問題を抱えています。同じ仕事をする人が増えれば、知名度が上がります。そして、何と言っても、業界に必要な仕事だと思っています。大企業では対応できない小さな仕事をコツコツとこなす事で、質量分析全体の底上げに繋がります。本当は、大企業が皆その部分(自分達では出来ない事が結構ある)を認識して、自分達に足りない部分に対して私達に協力を仰いでくれると良いのですが、大企業の人ってやっぱりプライドが高いので、自分達で全部出来てると思い込んでいるんです。そんな事あり得ないのに。

 

同じ組織に居なくても、将来は競争相手なる可能性があっても、後輩を育てるのは先に行っている者の務めだと思います。一日でも早く、一人前のフリーランス質量分析屋に育てたいです。

 

 

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LC/MS関連のご依頼が集中して嬉しい悲鳴!

今月半ばから、大学との共同研究で週2日に加え、低分子化合物の構造解析のご依頼に平日の残りの日を割り当てる事になり、3月中旬まで平日は全て埋まりました。それに加え、液体クロマトグラフィー研究懇談会関連の書籍の執筆に関するリマインダーメールが最近届き、LC/MS関係の原稿締切りが2月中旬に迫っている事を思い出しました。

 

仕事が立て込んでいる時は、1つ1つの仕事に集中して取り組めます。こういう時は、いつにも増して良い仕事が出来そうな気がします。

 

2月からは、5月の野辺山ウルトラマラソンに向けて、土日のどちらかはロングラン練習を入れて行くつもりでしたが、少し先延ばしになりそうです。土曜日に仕事しないと、とても終わりそうにない...(^o^;)

 

サッカーもあるし...

 

今は兎に角3月中旬までが勝負!

1日たりとも休めないから、風邪もひけないし(まぁ、元々風邪は殆どひかないけど...)。

集中して頑張ります!!

 

 

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