質量分析原理など

新規LC/MSイオン化法”軟X線重畳ESI”の追加データ_N-butylbenzene sulfonamideの例

エムエス・ソリューションズで開発中の軟X線重畳ESIは、ESIで生成した帯電液滴に軟X線を重畳照射する事で、ESIでイオン化し難い化合物のイオン化が促進されるという新規LC/MSイオン化法です。

 

今年の質量分析総合討論会で発表したポスターをホームページに掲載しています。今のところ、カルボニル基を有する低極性化合物に効果が認められています。何れも、ESIではイオン化し難い化合物です。一方、ペプチドや医薬品など、ESIでイオン化し易い化合物に対しては、今までの実験では、軟X線を重畳照射しても顕著な感度向上は見られませんでした。

 

しかし、最近の実験中に、ESIでバックグランドとして観測されるN-butylbenzen sulfonamideC10H15NO2S、モノアイソトピック質量213.082352)の[M+H]+が、軟X線重畳によって強度が増加している事に気付きました。この化合物、由来はよく分かりませんが、ESIイオン化によるLC/MSにおいて、正負両イオン極性で頻繁に観測されます。この例では、[M+H]+[M+Na]+ の合算強度において、ESI+軟X線はESIのみよりも約4倍増加しています。

N-butylbenzene sulfonamide

N-butylbenzen sulfonamide

 

マススペクトル_N-butylbenzene sulfonamide 

 

また、軟X線重畳ESIの特長として、ESIでは[M+Na]+ 強度が高い状況において、軟X線を重畳照射すると[M+Na]+ 強度が相対的に減少して、[M+H]+ 強度が増加する傾向が見られます。軟X線照射だけで効率よくイオン化する化合物は余り無く、ESIに重畳照射する事で種々の化合物に対してイオン化効率の向上が確認されています。

 

このイオン源は労働安全衛生法が適用されるので設置する前に届け出が必要ですが、興味ある方はご連絡下さい。

 

 

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マススペクトルを得るための測定モードは必ずしもスキャンではない!

今回から、質量分析計本体について、色々と書いてみたいと思います。

 

現在最も普及している質量分析計は、GC/MS, LC/MS, その他全て合わせても、四重極質量分析計(quadrupole mass spectrometer, Q-MS)でしょう。Q-MSの動作原理は、様々な書籍で紹介されているのでご存知の方が多いと思いますが、簡単に解説します。

1Q-MSの概念図、図2に質量(m/z)分離の原理を示します。

 

QMS概念図-2

図1 Q-MSの概念図

 

QMS原理

図2 Q-MSにおけるm/z分離の原理

 

1に示すように、4本の電極のそれぞれ対角線の対の2電極に対して同極性の直流電圧と高周波電圧を印可し、周期的に極性を変化させることで、イオンは4本の電極内に閉じ込められ、イオン源から検出器までを振動しながら飛行します。図2に示されている三角形様の図は、安定領域と言って、直流電圧と高周波電圧の大きさにおいて、どの位の電圧の時にどの大きさのm/zのイオンが安定に四重極内に存在出来るかを示しています。安定振動領域にあるイオンは検出器へ到達し、安定振動領域にないイオンは途中で四重極外へ排出されます。また図2に示すように、直流電圧と高周波電圧の比が一定になるように電圧を変化させることで、イオンのm/z を分離する事が出来ます。

ここで、図2に示した両電圧を、走査直線上に小さな電圧から大きな電圧に連続的に変化させると、小さなm/zのイオンから順番に四重極を通過して検出器に到達し、マススペクトルが得られます。電圧を連続的に変化させる事を走査(スキャン)と言います。

一方、GC/MSLC/MSで定量分析を行う場合、選択イオンモニタリング(selected ion monitoring, SIM)と言う測定法が用いられます。これは、特定のm/z値のイオンだけ四重極を通過させる測定法なので、図2に示した両電圧変化は段階的(不連続的)に行われます。

LC-MSに飛行時間質量分析計(time of flight mass spectrometer, TOF-MS)が用いられるようになる前までは、Q-MSの他にもイオントラップ質量分析計(ion trap mass spectrometer, IT-MS)や磁場形質量分析計(sector-MS)など、マススペクトルを得るためには電圧走査(スキャン)を行っていたため、今もその名残で、質量分析計の原理に関係なく、マススペクトルを得る測定モードを“スキャン”と言ってしまう人を見かけます。TOF-MSでは、パルス的に飛び出したイオンが検出器に到達するまでの時間によってイオンのm/zを分離するため、マススペクトルを得るために電圧走査(スキャン)を行いません。

先日、質量分析関連のイベントに参加した時、あるメーカーのアプリ担当(結構なベテラン)の方が、TOF-MSに対してスキャンと言う言葉を使っていました。とても残念に思いました。

Q-MS, IT-MS, sector-MSは、マススペクトルを得るために電圧走査(スキャン)をしますが、TOF-MSやフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometer. FTICR-MS)は、マススペクトルを得るために電圧走査を伴いません。

スキャン⇔SIMと言う概念が存在しない質量分析計もあるので、マススペクトルを得るため測定モードを安易にスキャンと言うのは避けた方が良いです。特にメーカーの方には、専門家として、原理や理論に基づいた正しい言葉を使うように気を付けて頂きたいです。

 

 

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第3回LC/MS分析士二段試験解説書

またまた発刊されました。LC/MS分析士試験の解説書。

今回は、2014年度に行われた第3回LC/MS分析士二段試験の解説書です。

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基本的に出題者が自分の分の解説を執筆します。今回も、私は何問か分の解説を執筆しました。

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50問を大体6~7名ほどで作成しますので(今回は6名)、一人当たり8問平均です。

執筆だけでも、この記事に書いたように殆どお金にならないボランティア活動なのですが、原稿の査読会に参加して他の執筆者の原稿をチェックしたり、

他の査読者がチェックしてくれた自分の原稿を修正したりの作業もありますので、1冊仕上げるのにはかなりの労力を伴います。

 

LC及びLC/MS分析士試験の解説書の発刊予定は以下のようになっており、LC/MS二段試験についてはあと2回分残っています。

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ただし、4,5回目のLC/MS二段試験には確か関わっていなかったと記憶しているので、二段試験の解説書は私にとってはこれが最後になると思います。

 

税別で2,000円なので、専門的な書籍としてはかなり安いと思います。その分、私のような(事実上フリーランス)の者にさえ原稿料を支払ってくれません。

苦労して作製した本なので、分析士試験を受けなくても、LC/MSに係る多くの人に読んで欲しいです。

 

 

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LC/MSでブランク試料を測定した時に現れる夾雑ピークについて

以前投稿した“LC/MSにおける試料調製や前処理で重要なポイント”について、1つデータが間違えていたので、先ほど修正しました。この記事の後半で描いている“ブランク試料のTICクロマトグラムで観測されたピークは、必ずしもブランク試料由来ではない可能性がある”について、今回は他の可能性を書いてみます。

 

経験上、二つの可能性があると思います。

 

1.試料導入系の汚染

オートインジェクターやマニュアルインジェクターなどの試料導入系が、以前測定した試料等によって汚染されている場合、それが試料注入の度に混入し、あたかも試料に含まれていたかの様な挙動を示します。

 

2.LCの水系溶離液の汚染

LC/MSに用いられるLCの8割以上は、逆相分配クロマトグラフィーです。そして、その多くはグラジエント溶離が用いられます。2の可能性は、逆相でグラジエント溶離を行う場合に特に起こり易いです。この条件では、グラジエントの初期状態は水系溶媒がリッチで、カラムの平衡化を行って試料を注入します。水系溶離液が汚染されていると、平衡化の間に溶離液中の成分がカラム先端にトラップされ、グラジエント溶離によってそれが溶出されてきます。そして、その成分があたかも試料中に含まれていたかの様に振舞います。

 

夾雑ピークの原因が、“ブランク試料に含まれている”か、“試料導入系の汚染”か、“LCの水系溶離液の汚染”か、を見極める方法は以下です。

 

  1. a. ブランク試料の注入量を変えて見る

注入量を変えて夾雑ピークの強度が変わればブランク試料由来、変わらなければ“試料導入系の汚染”か“LCの水系溶離液の汚染”が原因です。

 

  1. b. 試料を注入せずグラジエントプログラムだけ走らせて見る

これはLCシステムによっては出来ない場合がありますが、もし可能であれば、これをやってみて夾雑ピークが出現すれば“LCの水系溶離液の汚染”が原因である可能性が高いです。

 

  1. c. 平衡化の時間を変えて見る

bの実験をする際、水系溶離液による平衡化時間を変えて見ます。それに伴って夾雑ピークの強度が変化するようなら、“LCの水系溶離液の汚染”が原因である事は先ず間違いないでしょう。

 

この様なトラブルは、LC/MSでは何処でも起こりえます。しかし意識をしていないと、この様な問題が起こっている事自体に気づけません。

実際、私が技術指導等でご訪問したお客様のところでは、多くがこの問題が起こっていながら気づいていませんでした。

 

原因が分かった後の対処法については、また別の機会に書いてみようと思います。

 

LC/MSにおける分析法の棚卸、一度やってみませんか? 一つ上のステージでの分析が可能になりますよ。

ご依頼については、ホームページの問合せからお気軽にご連絡ください。

 

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エレクトロスプレーでイオン化できる化合物は?

LC/MSのイオン化法として代表的な2法、エレクトロスプレーイオン化法(electrospray ionization, ESI)と大気圧化学イオン化法(atmospheric pressure chemical ionization, APCI)、以下の図のような基準での使い分けが一般的です。

ESIとAPCIの使い分け

 

中~高極性化合物はESI、低~中極性化合物はAPCI、概ね正しいですし、ファーストチョイスとしては良い指標だと思います。しかし実際には、多くの人が描いているイメージより、ESIAPCIも沢山の化合物をイオン化出来ます。また、移動相溶媒(インフュージョンによる連続導入の場合は試料溶媒)についても、ESIには極性溶媒が必須であると思われがちですが、必ずしもそうではありません。流石にヘキサン100%ESIによる測定は難しいですが、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、トルエンなどは100%でもESIに使えます。また、そのような溶媒にのみ溶解する化合物(極性溶媒に不溶)は、イオン化効率は高くはありませんが、ESIでイオン化するものが結構あります。低極性溶媒をESIに使用する場合、例えばそれがLCの溶離液であれば、ポストカラムから溶離液および分析種が溶解する程度の極性溶媒を添加する方法が一般的ですが、極性溶媒(水酸基に対して反応性をもつ化合物など)によって分解してしまう化合物もあるので、そのような方法を用いる事が出来ない場合があります。

 

多環芳香族化合物やある種の金属錯体などは良い例だと思います。多環芳香族化合物は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン辺りの低分子ではESIで殆どイオン化しませんが、例えばこんな構造であればESI[M+H]+が観測されます。

Rubene

 

また、金属錯体など熱的に不安定な構造をもつ化合物の場合、ESIの脱溶媒の過程で熱分解を起こしてしまうので、脱溶媒温度を下げる事でイオンが確認できる場合があります。極端な例はコールドスプレーですが、ここまで積極的に低温にしなくても、脱溶媒の温度を室温程度まで下げれば高温条件では検出できなかった目的イオンが観測できるようになる場合があります。

 

 

 

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第2回LC/MS分析士二段試験問題解説書

日本分析化学会が毎年行っているLCおよびLC/MS分析士試験。初段~五段までがあり、初段~三段はマークシート形式の筆記試験です。LCおよびLC/MSの初段から三段まで、各3回分の試験問題の解説書を、分析化学会から出版する予定であり、最近第2回目のLC/MS分析士二段試験問題の解説書が出版されました。50問分の解説のうち、私は7問分を執筆しました。LC/MS分析士試験を受験する人の勉強用としては勿論ですが、参考書としても良い本だと思います。

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