質量分析原理など

第38回日本電子株式会社MSユーザーズミーティングに参加して

私の前職である日本電子株式会社のMSユーザーズミーティングに、協力企業として参加してきました。12/1に東京大学、12/8には大阪の千里ライフサイエンスセンターで開催。カタログ展示とショートプレゼンをさせて頂きました。

 

日本電子を辞めて7年半、今年から販売しているLC/MS用オンライン脱塩システム“ソルナック”の開発段階から、実験のためにLC-TOFMSJMS-100LP AccuTOF“を貸して頂いており、またソルナック自体にも興味をもって頂き、今回カタログ展示に声をかけて頂きました。有難い限りです。

 

ユーザーズミーティングと言うイベント、各MSメーカーで行っており(メーカーに依ってユーザーフォーラムと言ったりする)、自社の装置を使っているエンドユーザーに対して、新製品や製品を使ったアプリケーション例などを紹介する場です。日本電子のMSのラインナップは、GC-(Q, TOF)MS, LC-(TOF)MS, MALDI-(TOF)MSですが、アプリケーションに依っては前処理などの周辺付属装置やデータ解析用の専用ソフトなどが必要であり、そのような製品を扱っている企業との協力が必要になります。全部で10社程の企業が展示していました。

 

私は、日本電子に勤めていた頃、特に入社してからの10年一寸の期間はLC/MSのアプリケーション開発を担当していたので、ユーザーズミーティングでは毎年のように発表していました。今回は3分間という短いショートプレゼンでしたが、日本電子のユーザーズミーティングの演台に立ち、とても懐かしかったです。

 

上で列記した様々な装置の市場規模は、金額ベースではLC-MS > GC-MS > MALDI-MSであり、主なMSメーカー各社も、概ねこの順番で新製品開発やアプリケーション開発を行っています。一方日本電子は、私が辞める少し前から、LC-MSには余り力を入れなくなってしまい、替わりに、それまでもやっていたGC-MSや新たにMALDI-TOFMSの開発に力を入れるようになっていました。どんな製品開発に力を入れるかは、限られたリソースの中で取捨選択してトップが決めることなので、私のような下っ端がとやかく言えたことではありませんでしたが(実際にはとやかく言いましたが。。。)、そんなことが辞める理由の一つだったかも知れませんね。

 

それはそれとして、日本電子でもLC-MS事業を全く止めてしまった訳ではなく、AccuTOFのリモデル(質量分解能向上と制御ソフトの一新)は行っていました。しかし、昨今のLC-MS業界はLC-MS/MS全盛期、主なMSメーカーは殆どLC-MS/MSを開発しているし、ユーザーの仕事もLC-MS/MSを必要とするものが増えているという現状があります。

しかし、MS/MS機能の無いLC-TOFMSでも適するアプリケーションは確実にあり、それに対して、エムエス・ソリューションズで開発したソルナックという技術を組み合わせることで、AccuTOFの競争力が少しでも上がるなら、我々としても非常に嬉しいことです。

 

現在、ソルナックは製薬企業様を中心にご購入頂いていますが、その全てが今のところは日本電子以外のLC-MSを使っているお客様です。ソルナックは、どんなLC-MSにも配管接続だけで使える物なので、現場のユーザーがMSメーカーとは関係なく独自に購入して使って頂いています。ソルナックに関してMSメーカーとタッグを組むのであれば、当然日本電子最優先ですね。

 

さて、今回は日本電子MS販促の山本さんに声をかけて頂いて実現したソルナックのカタロ展示ですが、東京と大阪の両方で実施した感想は、“新しい技術は大阪の方が受けが良い”です。まだまだ知名度が低く、初めて知ったという方が圧倒的でしたが、大阪の参加者からは、“おもろいなぁ”とか“よう考えたなぁ”などという意見が沢山聞かれました。人間性の違いなのでしょうか、以前から大阪の人は新しい物好きという印象をもっていましたが、今回もそれが垣間見えました。実際、9月から発売を始めたばかりのソルナックチューブ、毎月リピートオーダー頂いているのは大阪のお客様です。

 

また、営業を担当してくれている総代理店のアルテア技研さんからも上がってきていて、今回のユーザーズミーティングでもいくつか聞かれた意見は、“多検体の連続分析への対応”でした。ソルナックチューブは基本的には1分析に1本使います。12本まで自動切換ができる連続分析用のバルブシステムはありますが、やはり中途半端と言わざるを得ません。

 

100検体位は連続分析可能なシステムを開発したいし、具体的なアイデアもあるのですが、問題は開発費が無いことです。これは、二人でやっている超零細企業の弱いところですね。いまやっているドラマ“陸王”にでてくる“こはぜや”の状況が我が事のように理解できます。

 

連続分析用のソルナックシステムの開発、まぁ何とか工夫してやるしかないですね!

 

 

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解離抑制を志向したLC溶離液条件はLC/MSには適さない

逆相分配クロマトグラフィーでイオン性化合物(酸性 or 塩基性)を分析する場合、カラムに保持させるための方法は大きく分けて以下の2つです。

 

  1. 解離抑制による方法
  2. イオン対試薬を用いる方法

 

通常のHPLCで用いられるイオン対試薬は不揮発性のものが多く、LC/MSには適しません。そのため、LC/MSに用いられる揮発性のイオン対試薬が市販されています。

 

解離抑制による方法についても、LC/MSには適しません。今回は、安息香酸の分析を例にとって説明します。安息香酸のpKa4.2です。図に示すように、溶離液のpH4.2の時に解離状態と非解離状態が1:1pH2.2以下ではほぼ100%が非解離、pH6.2以上でほぼ100%が解離状態となります。解離状態と非解離状態では、解離状態の方が高極性になるので、逆相分配クロマトグラフィーでは保持が弱くなります。つまり、保持を強くするためには、pH2.2以下にして非解離状態にすれば良い訳です。このような溶離液条件は、UV検出器などを用いる通常のHPLCでは問題なく使えます。

安息香酸

 

LC/MSでは、安息香酸は弱酸性でプロトンの授受に関与する官能基はカルボキシ基なので、負イオン検出で測定するのが一般的です。安息香酸を負イオンで検出する時に、強酸性の溶離液を使用してしまうと、溶離液の添加剤の方がイオン化され易くなり、安息香酸のイオン化を抑制してしまうという問題が起こります。

 

このように、一般的なHPLCでは普通に用いられる解離抑制による溶離液条件は、LC/MSには適さないということになります。不揮発性塩を含む緩衝液と同様、通常のHPLCで使える移動相条件がLC/MSで使えないというのは、分析条件を検討する上ではストレスになります。

 

今回、この問題に対してソルナックチューブを適応させてみました。ソルナックチューブは、元々はリン酸ナトリウムやリン酸カリウムを除去するために開発したものです。そのため、ソルナックチューブには、陽イオンと陰イオンの両方を吸着させる機能があります。そのため、分析種もソルナックチューブに吸着してしまう可能性があります。一方、解離抑制を志向した溶離液条件に用いる場合、例えば今回の安息香酸の例では、溶離液の添加剤としてTFAを用いるとすると、安息香酸とTFAではTFAの方がpKaが小さいために、TFAのみが吸着して安息香酸は吸着しないようにイオン交換樹脂を細工すれば、TFAのみを選択的に除去することができます。

 

添付URLのアプリケーションデータでは、試料にトリプトファンを用いています。トリプトファンは、芳香環の影響によって解離抑制の条件を用いなくても逆相カラムに保持しますが、今回はTFAよりも負イオン([M-H])になり難い(TFAによりイオン化抑制を受け易い)例として用いました。

 

塩基性化合物のLC/MSについても、逆の性質のソルナックチューブを用いることで、解離抑制による溶離液条件を用いることが可能になります。

 

 

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LC-MSに限らず、製品のスペック(仕様)と価格の関係を考えない人って結構いると思う

製品のスペックと価格は密接に関係しています。趣味に関する物、例えば骨とう品や服、美術品などは求めるスペックが人それぞれ違うので、一概には言えません。しかし実用品に関しては、性能が高いものは価格も高いし、性能が低いものは価格も安いと言えると思います。あるいは、全体的な性能はショボくても、何か一つ特化して高い性能の物なども価格が高くなることはあります。

また、直接価格に関係しなくても、製品にはその開発のコンセプトがあり、コンセプトに基づいてスペックが決められています。○○用と謳った製品のように、用途を限定してスペックが決められた製品のことです。例えば車であれば、ファミリー向けとかスポーツカーとかトラックとかと言うカテゴリー(用途としてのスペック)があり、用途をある程度限定しています。そのカテゴリーの中で、性能の高いものは比較的価格が高く、性能の低いものは比較的価格も安いということになります。

 

製品を売る側は、用途としてのスペックとそのための性能、それに基づいて決められた価格を買う側に説明し、買う側はそれが自分の求めているもの(予算や使用目的など)と合致すれば購入する訳です。

 

私が仕事をしている質量分析の業界でも、上記の事は概ね一般的に当てはまります。色々なことが出来るかあるいは特化した高い性能のものは価格が高く、単機能で性能も大したことないものは価格が安い、総じてそのように言うことができます。安い装置は、出来ることも得られるデータも大したことないということです。その分安いのです。

時として、売る側が無知で(あるいは嘘をついて)、製品のスペックを買う側に正しく説明せず、買う側が購入した後に製品スペック以上のことが出来ることを期待してしまいます。そうなると最悪で、販売した企業の評判が悪くなるだけなら良いのですが、下手をすると、質量分析自体が使えない機器分析法であるかのように誤解されてしまう場合も有り得ます。しかし、実際そういうケースは結構あり、実に嘆かわしいです。

 

最近、エムエス・ソリューションズで開発・製品化した“ソルナックシリーズ”は、かなりスペックを限定した製品です。例えば“ソルナックチューブ”、HPLC溶離液に添加したリン酸塩を、カラムの後段で除去するデバイスですが、リン酸塩を連続できる時間は、10 mM濃度を0.3 mL/minで流した時に大凡10分間。基本的には1分析毎に交換する使い捨てです。価格は、10本パックで1本あたり3,000円。10分間の1分析で3,000円という額が高いか安いかは議論が分かれるところです。

 

私達が掲げているソルナックチューブのコンセプトは明確です。

 

リン酸塩を含む溶離液はLC/MSには使えないので、例えばリン酸塩を含む溶離液でHPLC条件が決まっている試料があるとして、それをLC/MS分析に供するには揮発性の酢酸アンモニウムなどに変更する必要があります。それが1日かかるとして、月収30万円の人がその作業をすると、人件費だけで3万円程かかる計算になります。そんなことをするよりは、先ず13,000円のソルナックチューブを試してみた方が無駄な時間もかからないしトータルコストは安くすみますよ。取り合えずファーストチョイスで使ってみて下さい!

ということです。

 

それに対して、“1分析しかできないものは使えない”、“1分析3,000円は高い”、などと言ってくる人が結構います。

 

連続分析に対応するためにe-SALNACというバルブシステムがありますが、それでもソルナックチューブ交換なしでの連続分析は12回しかできませんので、それ以上の連続分析への要求は、現在新しいシステムを検討中です。

 

私達は、ソルナックチューブの出来ることと出来ないことを明確に説明しています。それでも“これはうちの仕事に使える”と思ってくれたお客様が買ってくれれば良い訳です。

 

繰り返になりますが、売る側は製品のスペックを正確に伝える必要があるし、買う側はそのスペックが、自分がやりたいことに合っているかを見極めてから購入する必要があります。

 

 

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第9回LC/MSワークショップ開催報告

10/26-27、浜名湖ロイヤルホテルで第9回LC/MSワークショップが開催され、今回も世話人として参加してきました。この会は、主に製薬企業のLC/MS現場で問題になっている現象に対して、様々な視点から議論することで相互理解を深めたり問題解決の糸口を見つけたりすることを狙い、2009年に立ち上がったディスカッショングループです。今回の開催趣意書はこちら。日本ウォーターズ株式会社が事務局のサポートをしてくれていますが、参加者がウォーターズユーザーに限定されるようなことはありません。

参加者は主に製薬企業でLC/MSを使って研究している中堅研究者と、LC/MS関連のアカデミア、その他でトータル36名でした。私は、横浜市立大学に非常勤の籍があるので、一応アカデミア側の参加者という位置づけ。

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ディスカッションの様子。コの字に机を配置して、全員参加型でディスカッションします。

 

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初日夕方の休憩時間に、浜名湖が見える場所までランニング!

 

 

ここ数年は、ESIにおけるマトリックス効果、フラグメンテーション、タンパク質の定量分析、の3本が主テーマですが、今回もこの3本柱で数人の演者に話題提供をしてもらい、それに対して突っ込んだディスカッションをしてきました。昨年の様子はこちら。

 

 

マトリックス効果に関しては初回からずっと議論していて、原因と分析現場での対処法については概ね議論が出尽くした感があります。原因については以前のブログでも紹介していますが、マトリックス成分の物性(プロトン親和力、界面活性、疎水性)、初期の帯電液滴サイズと電荷密度、から概ね説明できます。対処法についても、試料の希釈、試料前処理、カラム分離、分離モードの変更、イオン化モードの変更、ESIであればダウンサイジングなど、現場ではそれぞれの方法で解決策を模索しており、概ね落ち着いてきた印象です。

 

しかし、汎用的に使われているコンベンショナルESIでマトリックス効果が起こるという現象自体は何も変わっておらず、これをこのまま諦め対処法を駆使して使い続けるのか、コンベンショナルESIの汎用性を保ちつつマトリックス効果を低減させる新たなイオン化法を開発するのか、弊社で開発中の新規LC-MSイオン源も実はマトリックス効果低減を期待しているのですが、今のところ別の効果(ESIだけではイオン化し難い化合物を+αのエネルギーでイオン化できる)で使えそうな感じです。

 

フラグメンテーションのセッションでは、今回理研の津川氏に“フラグメンテーション解析支援ツール”の開発の話しをして頂きました。MS-FINDERというツール、私も使っていますが、なかなか良いです。本当は、MS/MSにより得られたマススペクトルから化合物の構造を組み立てられると良いのですが、それは現状不可能です。その障害になっているのは、主には転位反応だと思います。LC-MS/MSでは殆どの場合低エネルギーCIDによる開裂が用いられますが、この開裂方法では転位反応を伴う開裂がしばしば起こります。マススペクトルから、“このイオンは転位反応によって生成したイオンか単純開裂によって生成したイオンか”を見分けることは出来ません(以前ブログに書いたMIKESを使えば可能ですた)。また、高分解能MS/MSによってイオンの元素組成は分かるとしても、その構造まで一義的に決められるのは、かなり小さなm/z値のイオンに限定されます。現時点では、MS-FINDERのように、化合物データベースに登録されている化合物の構造から生成され得るフラグメントイオンを予測し、それを実測のスペクトルと比較して構造を推定するという方法が最も現実的な方法でしょう。

 

今回は、実際の仕事でフラグメンテーションの解析を行っている人が少なかったのか、余り突っ込んだ議論にはなりませんでした。

 

毎回限られた人数で深いディスカッションができる良い会ですが、今回は初参加の方も積極的にディスカッションに参加してくれて、全体的にとても盛り上がったと思います。このワークショップ、参加者を広く募集することはしておらず、専ら世話人からの声かけによって参加者を募っています。次回は10回記念大会です。

 

 

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LC/MS用オンライン脱塩システム“ソルナック”、初のリピートオーダー入りました!

今年の3月から発売を開始したソルナック(カートリッジ&チューブ)、複数の製薬企業様を中心にお使い頂いていますが、9月にチューブをご購入頂いたお客様より、リピートオーダーを頂きました。

 

リピートが来たという事は、前にご購入頂いたカートリッジがお役に立ったという証拠ですので、非常に嬉しいです。

 

LC/MSで不揮発性塩を含む緩衝液や不揮発性のイオン対試薬を使用できるソルナック、勿論万能ではなく様々な制限がある技術ではありますが、LCMSの間にソルナックカートリッジあるいはソルナックチューブを接続するだけという非常に簡便な操作で、従来不可能だった不揮発性緩衝液を用いたLC/MSが可能です。

 

例えば、不揮発性緩衝液の移動相条件を、LC/MS用に揮発性緩衝液へ条件変更をするのに一日要するとして、数十万円の人件費が必要になります。それより、13,000円のソルナックチューブをファーストチョイスとして試した方が、費用対効果の面で断然経済的です。

 

是非一度お試しください。

 

 

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質量分析のソフトイオン化温故知新:Frit-FABのあれこれ-2

5/1719に行われた第65回質量分析総合討論会の“メタボロミクス温故知新”でイオン化の話をしてきた内容の一部を3回紹介してきました。

 

1回目:第65回質量分析総合討論会に参加して:イオン化温故知新、ESIFABの比較-1

 

2回目:第65回質量分析総合討論会に参加して:イオン化温故知新、ESIFABの比較-2

 

3回目:質量分析のソフトイオン化温故知新:ESIFABの比較-3

 

また4回目は、FABイオン化を用いたLC-MSインターフェース“Frit-FAB”について中心に書きました。

 

今回はその続編、使用していた時に注意していたノウハウ的な内容です。今回も図や写真の一部は、日本電子の松浦健二氏と旭川医科大学の阿久津弘明氏にご提供頂きました。冒頭でお礼申し上げます。

 

私がFrit-FABを主にLC/MSの応用研究をしていた19901995年当時、Frit-FABLC-MSの主流になり得なかった理由の一つはスプリット比の問題だったと思います。液体導入量が約5 µL/minに制限されていたため、コンベンショナルHPLCとの組み合わせにおいて、HPLCに注入した試料の殆どを捨ててしまっていたということです。そして、当時のFrit-FABにはもう一つ重要な問題がありました。それはfritのセッティングが難しかったことです。

 

下の写真と図は、第65回質量分析総合討論会で使用したものですが、これでFrit-FABのセッティングを説明します。

Frit-FABプローブ

 

先ず、キャピラリーチューブをプローブ(写真の白いロッド状の部品)に通します。キャピラリーの先端をカルレッツ製のセプタム(中心に孔が空いている)に通し、内キャップをかぶせてネジ部分で締め込みます。内キャップには中心に孔(7-8 mm位)があるので、内キャップを締め込んでいくと、孔からセプタムが盛り上がって出てきます。

Frit-FABのセッティングの一つ目のポイントは、この内キャップの締め込み具合です。イイ感じでセプタムを盛り上がらせることが重要です。そして、イイ感じでセプタムが盛り上がった状態の時、キャピラリーの先端をセプタム盛り上がりの頂上に面一で合わせます。

 

次に、セプタムの上にfritをおき、外キャップを被せて締め込みます。この時の力加減が二つ目の重要なポイントです。

三つ目の重要なポイントは、frit自体の質です。これら三つのポイントは、全てクロマトグラムのピーク形状を決める要因です。

 

fritはステンレス製の焼結フィルターなので、内部は編み目構造になっています。HPLCカラムで分離された成分は、セグメントの状態で溶離液と共に配管の中を流れてきて、fritの中を通過して表面に滲み出てきます。この時、fritの編み目構造が粗いと、表面に出てくるよりも前にfrit内部で拡散してしまい、クロマトグラムピークがブロードニングしてしまいます。イイ感じで目の細かい密や状態のfritを使うことが重要です。

 

一つ目のポイントである内キャップの締め込み具合や二つ目のポイントである外キャップの締め込み具合も、弱いとセプタムとfritとの密着度が下がるので、クロマトグラムピークがブロードニングします。また、強すぎると液の流れがスムーズにならなくなるので、感度が低下します。これは指先の感覚が頼りなので、当時も多くの人に伝授しようとしましたが、感覚って人に教えることが出来ないので、難しかったですね。fritの良し悪しの見極めについても、セプタム(面一で合っているキャピラリーの先端)から液が出ている状態でfritを指で押さえつけた時、液がfritの表面に即座に出てくるか、内部でじわっと滲むように動くか、を目視して判断します。液がfrit内部で滲んでしまうと、当然クロマトグラムピークがブロードニングしてしまいます。液の動きは約5 µL/minと微量ですから、この目視感覚もかなり個人差がありました。分からない人には全く分からなかったようです。

 

上記三つのポイントが全てパーフェクトな条件で、且つミクロHPLCを接続すると、以下に示すようなデータが得られました。これは、共同研究者が書いた論文ですが、データは勿論全て私が測定しました。

Frit-FAB論文_アルカロイド-1

Frit-FAB論文_アルカロイド-2

Frit-FAB論文_アルカロイド-3

 

この研究で使っていたHPLCは、当時では珍しいスプリット無しのプランジャータイプのポンプを使用していました。Micro-Tech Scientific社の製品で、日本ではフロンティアラボ株式会社が扱っていました。当時、購入したのか借りて使っていたのか...? 私の上司がフロンティアラボ㈱の社長と懇意にされていたので、借りて使っていたのかも知れません。

 

このミクロHPLCがまた大変な代物で、とにかく保持時間の再現性を得るのが大変でした。コンベンショナルHPLCの常識が全く通用しないのです。当時これと同じスプリット無しのプランジャータイプのミクロHPLCは、殆ど日本では稼働していなかったと思うので、他の装置と比較することもできないし、それこそ試行錯誤の連続でした。それでも何とか安定稼働する条件を見つけ出し、苦労に苦労を重ねて得られたのが、この論文のデータです。

 

自画自賛になりますが、このクロマトグラムは本当に美しいです。当時ミクロHPLCFrit-FABの組み合わせで、ここまで美しいクロマトグラムが得られた例は、少なくとも私は見たことがありません。今まで、恐らく10万を裕に超える質量分析のデータを自分自身で測定してきた中で、このデータは最良と称される部類に入ると思います。

 

検出限界も、セクターMSSIMモードでsub-fgに迫ろかというレベルでしたから、今の時代に持ってきても見劣りしないと思います。

 

以前から質量分析をやっている人は皆そうだと思いますが、一昔前の装置って、良いデータを安定的に得るためには、こう言う職人技が必要だったのです。良いデータを得るために色々と苦労して、時には装置をいじったりするから装置自体のことも良く解るようになる。色々と考えて創意工夫をしなければ、良いデータは得られなかった訳です。最近の装置しか知らない人には、こんな苦労話をしてもピンとこないと思いますが...

 

当時はレアで使いにくかったミクロHPLCも今ではルーティーンワークに使えるレベルにまで安定しているし、fritの歩留まりも今の加工技術であれば問題ないと思いますし、2つのキャップの締め具合も専用のトルクレンチを作れば誰でも良い締め具合で調整できるし、今の時代に合ったFrit-FABを創りたいなぁと常々思っています。自社だけでは開発費用がないので、大学や他企業との共同研究で外部資金を獲得する方法を模索するなどの工夫が必要になりますが。

 

 

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