2018年1月

マススペクトル解析のご依頼:経験を積むってやっぱり大切!

今週、以前からの知り合いのラボを表敬訪問してきました。オンライン脱塩、ソルナックチューブの営業目的もありましたが。ラボの装置や設備を見学させて頂き、業務内容などをご説明頂く中で、思わぬお仕事のご依頼を頂きました。

 

未知化合物の定性分析の仕事がたまにあって、測定までは出来るけどマススペクトルを解析して未知化合物の構造推定を行うための時間や人員の確保ができないとのこと。そこで、測定済みのデータ(高分解能LC-MS/MSで測定したマススペクトルとMS/MSスペクトル)から、ターゲットとなる未知化合物の構造推定をして欲しいというご依頼でした。

 

かなり急いでいるとのことで、数日間の猶予をもらうことで、その場で契約成立! 今日は一日中、マススペクトルと睨めっこしていました。まぁ、合間に走りに行ったりはしましたが...

 

構造予測が全くできていないということで、かなり苦戦することが予想されましたが、MS/MSスペクトル中にヒントが隠されていて、それに気づいたことから、自分としてはある程度の構造予測ができました。そして、それを元にしてデータベース検索したところ、それらしい構造がヒットしてきました。MS/MSスペクトルを帰属してみましたが、矛盾は有りません。

 

複数化合物の構造推定をするので、今夜もう少しと日曜日に少し、あとは月曜日に頑張れば、何とか目途はつきそうです。

 

自分で測定していないデータを解析することは余りないので、どうなるかなぁとかなり心配しながら受けた仕事ですが、何とか良い結果を報告できそうです。今回は、MS/MSスペクトル中のヒントに気付いたのが大きいです。これは、長年色々なマススペクトルを見て、培った経験に基づく部分が大きいと思います。

 

質量分析を用いて未知化合物等の構造推定をお仕事でやられている方は、とにかく沢山のマススペクトルを見る事が重要です。それが自分の経験値、引き出しの数に繋がります。

 

 

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独立起業して大切なこと:分相応であること

FBでも繋がっているブロガーの「かさこさん」という方は、セルフマガジン等の冊子を自費で作成して無料で配布しているのですが、今回「好きを仕事にする独立起業の教科書」という冊子を作成され、先日送ってきてくれました。その内容については、今後紹介しようと思いますが、その冊子を読んで私なりに独立起業について思っていることを書いてみます。

 

以前のブログでも書きましたが、日本電子から独立、エムエス・ソリューションズを設立して8年目になります。新たに起業した会社の生存率、7年では10%位らしいので、我ながら頑張っていると思います。

 

独立起業して、今まで常に気を付けていること

 

それは「分相応」であることです。

身の丈に合ったことをする、見栄を張らないということですね。

 

特に支出面では、余計な出費を極力抑える努力をしています。

 

例えば事務所! 会社設立というと事務所をどうするか? って思う人が多いと思いますが、私は最初から事務所を借りるという考えはありませんでした。一人でのスタートでしたし、仕事の内容的にも専用の事務所が必要なかったということもありました。しかし、「分相応」を考えない人は事務所を借りて余計な固定費を支払ってしまい、経営を圧迫してしまう要因になると思います。余計な固定費を抑えることは、会社経営ではとても重要なことです。

 

例えば試薬の入手! 液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)という機器分析に関わる仕事をしていますから、色々な試薬を使います。しかし、その必要量は極僅か(例えば1 mg位)であることが殆どです。そして、試薬会社から販売されている試薬というのは、例えば10 gとか25 gとか、一度購入したら一生使いきれないような量なのです(1 mg10 g10,000分の1)。それなら、知り合いから使う分(1 mg)だけ分けてもらうことは出来ないかと考え、今までに相当種類の試薬を分けて頂きました。

 

例えばカラムなどの消耗品の入手! 上でも書きましたが、仕事柄LCのカラムなどの消耗品を使うことがあります。価格は概ね15万円程度。大企業であれば1本買えば数週間とか数か月で使い倒してしまいますが、我々はそれ程使いませんので、新品である必要はありません。大企業等で、購入はしたけど余り使われず廃棄される予定の消耗品類って結構あるのです。そういう廃棄品を知り合いから頂くことで賄うことが多いです。

 

こう言うことをやっていると“ケチ”だと思われる方も多いかも知れません。でも私は、こういう事は「分相応」の1つだと思っています。例えば試薬の話し。大企業でも、10 gとか25 gとかと言う単位で試薬を購入すれば、それを使いきることは先ずありません。おそらく90%以上は使わない状態で廃棄されるケースが殆どです。それなら1 mg位は頂いても、その会社にとって何のデメリットもありません。もちろん、組織によってはそのような行為を認めていない所もあるので、そのような企業から頂くことはしません。

 

カラムの例についても、廃棄予定の物を引き取っているに過ぎません。再利用なので、頂く元の企業様には迷惑がかかることはありません。

 

人さまに迷惑をかけず、最低限の支出で最高のパフォーマンスを発揮して、質量分析を通じて役に立つ仕事をする。小さな仕事ばかりですが、リピーターのお客様もいますので、今後も会社を存続させて今の仕事を継続させなくてはなりません。今後も、「分相応」、「身の丈に合った」ことをやって、質量分析を通じて社会に貢献できる仕事をしていきます。

 

 

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大雪予報の日にノーマルタイヤの車で出かけるのは迷惑だから止めましょう!

今日は関東全域に雪の予報、都内でも510 cmの積雪が予想されています。東京では23年に一度位の割合で大雪が降っていて、その度に交通機関がマヒ状態になります。車がスリップして立ち往生、大渋滞や事故のニュースを見ますが、その原因となっている車は、殆どがノーマルタイヤを履いていますよね(>_<)

 

私は群馬県の出身で、実家は前橋なのでそれ程雪は降りませんが、子どもの頃からスキーをやっていたし、大学生になってからは通学用の軽自動車にスタッドレスタイヤを履いて、自分で運転してスキーに行っていました。冬場限定で年に数回程度ではありますが、雪道運転の経験は30年以上です。そんな経験から言うと、ノーマルタイヤの車で雪道を走るなんて、とても考えられません。東京の人が、積雪があるのにノーマルタイヤの車で出かける神経が全く理解できません。スタックして立ち往生するリスクが高いのに...

 

自分がスタックして動けなくなるだけならまだしも、それが原因で大渋滞や事故が発生します。そして社会全体に迷惑をかけることになる。積雪が予想されている日に、ノーマルタイヤを履いた車で出かける人は、そこまで考えているのでしょうか?

 

それを予想して敢えて実践しているのであれば、そういう人は本当に頭が悪いと思います。迷惑だからやめて欲しいです。

そこまで考えずにやっちゃっている人は、是非考えて頂きたい。

 

スタッドレスを履いていても、急ブレーキ、急ハンドル、急発進など“急”のつく動作をすれば滑るし、そもそも東京に降る雪は水分が多いので、スタッドレスでもグリップが悪いのです。タイヤが雪を噛んだ状態で、雪自体が動いてしまう感じがあります。うちの車は、スキーに行くこともあり毎年スタッドレスを履きますが、積雪した東京での運転は、スキーに行くとき以上に神経を使います。とは言え、ノーマルの車がスタックしていたりするので、本当に必要な時以外は車で出かけることはしませんが。

 

今日の雪は、夕方辺りから本降りになって積雪するようです。朝通勤しちゃったノーマルタイヤの車が、帰りの雪道で事故ったとか、スタックして大渋滞を引き起こしたとかって言うニュースが、明日の朝流れるのでしょうねぇ...

 

何年かに一度の割合で起こっていることなのだから、いい加減学習して、愚かな行為は自粛して欲しいものです。

 

 

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LC-ESI/MSにおける酸性移動相条件での負イオン検出について

逆相分配クロマトグラフィーにおいて、カラムに保持され難い高極性化合物(イオン性化合物)を保持させるために、イオン対試薬を用いる方法と解離抑制の移動相を用いる方法があり、解離抑制のための移動相条件はLC/MSには適さないという話を以前ブログに書きました。

 

 

シリカベースの逆相カラムは、一般的には強塩基性条件に弱いので、解離抑制のための移動相条件としては酸性側で使う方が多いと思います。解離抑制のために移動相を酸性にするということは、分析種も酸性ですから、LC/MSでの検出には正イオンより負イオンの方が適しています。移動相が酸性、分析種も酸性、そして分析種を負イオンで検出するということは、分析種の負イオン検出におけるイオン強度は移動相の種類(酸性度)に大きく依存します。

 

先日、ソルナックチューブの実験のために日本電子㈱で装置をお借りした時、1つの化合物(分析種)を負イオンで検出する時、移動相を酢酸、ギ酸、TFAと変化させた時、分析種のイオン強度がどの程度変化するのか確認してみました。試料はアミノ酸の一種であるメチオニンを用いました。各移動相条件で測定した時の、メチオニンの[M-H]に相当する抽出イオンクロマトグラム(EIC)とマススペクトルを示します。

 

酢酸条件

メチオニン 負イオン 酢酸条件

 

ギ酸条件

メチオニン 負イオン ギ酸条件

 

TFA条件

メチオニン 負イオン TFA条件

 

各条件におけるEIC強度は、酢酸の時は5233、ギ酸の時は958、そしてTFAの時は未検出でした。移動相の酸性度が大きくなる程、メチオニンの[M-H]の生成が抑制されて、強度が減少していることが分かります。

 

また、TFA条件でHPLCとMSイオン源の間に陰イオン交換型のソルナックを接続した時のデータを示します。チューブ内での拡散の影響でピークはブロードニングしていますが、EICピークが確認できます。

 

TFA条件でソルナックチューブを用いた場合

メチオニン 負イオン TFA+ソルナック

 

また保持時間は、酢酸の時は1.8分、ギ酸の時は2.0分、TFA(+ソルナックチューブ)の時は3.6分でした。TFAでは、メチオニンのカルボキシ基の解離が抑制されたために保持が向上したことが分かります。

 

酸性移動相を用いて分析種を負イオンで検出する場合、移動相に添加した酸が付加したイオンが高い強度で検出される場合がありますが、今回のように酸が付加したイオンが検出されない場合、基本的には移動相の酸性度が高くなるほど、分析種の負イオンの生成は抑制される傾向にあります。

 

 

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2017年秋ドラマ:個人的に面白かったランキングベスト3

冬ドラマがすでに始まっていますが、昨年末に終了した秋ドラマの中から、個人的に“面白かったなぁ”と思うドラマベスト3を紹介します。因みに、私はドラマが大好きで、昨年は以下8つの秋ドラマを見ていました。「民衆の敵~世の中、おかしくないですか?~」、「明日の約束」、「奥様は、取り扱い注意」、「ドクターX」、「刑事ゆがみ」、「コウノドリ」、「先に生まれただけの僕」、「陸王」

なお、私が面白いと思うドラマは、

・共感できる内容

・感動できる学園もの

・好きな俳優・女優が出演している

のどれかである可能性が高いです。

 

で...

 

第一位:陸王

昨秋ドラマは何といっても「陸王」でしたね! 老舗足袋製造業の零細企業「こはぜや」が厳しい経営状況の中、存続をかけて新製品であるランニングシューズを開発するか従来の足袋事業に留まるかの選択を迫られる。開発資金調達や既存市場への新規参入の難しさ。零細企業経営者として、共感できる内容が多く、毎回ストーリーに入り込みました。また、私の趣味の1つであるランニングが、ストーリーの重要なテーマであったことも大きかったですね。私は15年程前から走っていますが、3年程前から膝への負担を減らすために、約1年かけてフォームを改良。踵着地 → フォア・ミッドフット着地に変更し、最近その走り方が大分安定してきたところでした。そこへきて「陸王」の中で「こはぜや」が開発した新しいシューズが、正にフォア・ミッドフット着地のためのシューズってことで、その点でも大いに興味を惹かれました。

開発したシューズは良い品なのに、なかなか市場で認めて貰えない。良い製品が必ずしも売れる訳ではない。開発を行っている企業であれば、どこでも経験することです。そのジレンマや、地団駄を踏みたくなるような悔しさ、開発したくても資金がないもどかしさ。とにかく共感できる内容が多かったという点で、ダントツの一位でした!!

 

第二位:先に生まれただけの僕

企業の営業マン(鳴海、嵐の櫻井翔くん)が、その企業が経営する高校の校長として出向させられ、他教師や出向元企業の専務(鳴海を出向させた張本人)らと対立しならが、特徴も人気もない三流高校を人気の進学校に変えるために奮闘する学園ドラマ。新任教師がその学校の従来の校風をぶち壊すというストーリーは学園ものにはありがちですが、それが校長というのは今までに余り見たことがないかなぁと思います。最初は校長の仕事にやる気を見せなかった鳴海が、学校を良くしたいという思いから少しずつ変わっていく。変わる最初のキッカケは、実績を上げて会社に戻りたいという自分のためだったが、徐々に生徒達のためにという気持ちの変化が現れ、見ていてほっこりする気持ちになることがしばしばありました。自分の意にそぐわない立場に立たされたとしても、その場で自分の出来ることをやるというスタンスは、良い仕事をする上でとても重要なことだと思います。

昨今、新入社員が直ぐに退職してしまうケースが多く、その理由の1つに“希望する仕事内容とのミスマッチ”があるという話題がしばしば報じられています。そのような理由で離職するのは入社1年目が多いらしいですね。私は仕事で学生と関わることが多く、彼らが卒業して就職する時には、“3年は辞めるな”と伝えるようにしています。“希望する仕事内容とのミスマッチ”と言いますが、そもそも希望する仕事内容が自分に向いているのか、希望通りでなく嫌だと思っている仕事が本当に自分に向いていないのか、本当は向いているのではないか、そんなことは就職して1年やそこらで分かる筈がないと考えており、学生達にもそのように伝えています。“先に生まれただけの僕”は、これから社会に出る学生くん達に見て貰いたいドラマでしたね。

 

第三位;ドクターX

今回で5作目だったのですね! 外科医の高いスキルと経験をもってフリーランスで勝負する大門未知子の姿は、大企業を退職して質量分析屋としてのスキルと経験で勝負している身として、毎回共感できる部分があり、欠かさず見ています。ストーリーはマンネリ化している感はありますが、次回作も楽しみです。

 

2018年冬ドラマも面白そうな作品が幾つかありますね。こちらも楽しみです。

 

 

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LC/MS/MSにおけるData Dependent Acquisitionのパラメーター設定について

質量分析を用いた未知化合物の構造推定にMS/MSは欠かせません。MS/MSの測定法には幾つかの種類がありますが、最も多用されているのはプロダクトイオンスペクトルを取得する方法でしょう。以前はプロダクトイオンスキャンと呼ばれていましたが、最近は四重極飛行時間質量分析計(quadrupole time of flight mass spectrometer, Q-TOF-MS)のようにMS2で電圧をスキャンしないタイプのMS/MS装置が増えてきたので、プロダクトイオンスキャンという言葉は一般用語としてはあまり使われなくなってきました。三連四重極質量分析計(triple quadrupole mass spectrometer, QqQ-MS)のように、MS2で電圧をスキャンするタイプのMS/MS装置に限定した話としては使っても何ら問題はありませんが。

 

プロダクトイオンスペクトルは、特定のm/z 値をもつイオンが分解して生成した断片化イオンを測定して得られるものです。断片化する前のイオンをプリカーサーイオン、断片化したイオンをプロダクトイオンと呼びます。MS/MSでは、MS1で特定のm/z値をもつプリカーサーイオンを選択し、それをCID等により断片化し、プロダクトイオンをMS2で測定してプロダクトイオンスペクトルが得られます。

ここで、MS1でプリカーサーイオンを選択する方法は、大きく分けて2つあります。1つは自分でm/z値を設定する方法、2つ目はソフトで自動的に選択させる方法です。2つ目の方法をData Dependent Acquisition (DDA) と呼びます。メーカーによっては、Information Dependent Acquisition (IDA) と呼んでいる場合もあります。

自分でプリカーサーイオンのm/z値を設定する場合、当然ですが、設定する時には目的のプリカーサーイオンのm/z値が分かっている必要があります。つまり、試料をマススペクトル取得モードで予め測定しておく必要があります。しかし、貴重な試料の場合、何度も測定することは困難ですし、時間の節約という意味でも、一度の測定でマススペクトルとプロダクトイオンスペクトルの両方を取得したいという要求があり、それに応えたのがDDAです。DDAは、最近のMS/MS可能な装置には殆ど搭載されている機能です。

 

ここでは、前回のブログに書いた通り、DDAでのパラメーター設定について基本的な考え方を解説します。

 

先ず、自動的にプリカーサーイオンを選択する時のトリガーになるのは、イオンの強度(閾値)です。図1DDAの概念図を示します。基本的な考え方としては、溶離液だけがイオン源に導入されている時に得られるマススペクトル上に観測されるイオン強度よりも少し高い値を閾値として設定します。図1では1000が設定されています。すると、カラムから何も試料成分が溶出していない時はマススペクトルを取得し続け、カラムから試料成分が溶出してイオン源に導入され、それがイオン化されて閾値より高いイオン強度を示した時、そのイオンをプリカーサーイオンとして選択してCID等により開裂させ、プロダクトイオンスペクトルが取得されます。

 DDA-1

1 DDAの基本概念図

 

次に重要になるのが、1つのイオンを何回プリカーサーイオンとして選択させるかということです。これは、Dynamic Exclusionという機能の1つになります。そして、この機能は、高分解能質量分析計か低分解能質量分析計かによって設定するパラメーターが変わります。ここでは、高分解能質量分析計の場合で説明します。例えば、図2に示すように、測定開始後1分に、モノアイソトピック質量300.0000という化合物(成分①)がカラムから溶出し、そのプロトン付加分子としてm/z 301.0073というイオンが閾値を超えて、プロダクトイオンスペクトルが取得されました。このイオン強度が閾値を超えたのは、ピークの立ち上がり部分なので、この後も暫くの間m/z 301.0073イオンは観測され続けます。ここでDynamic Exclusionの設定をしていないと、m/z 301.0073イオンが高い強度を保っている間、ずっとこのイオンのプロダクトイオンスペクトルが取得され続けることになります。図2のように、成分①の直ぐ後ろに成分②(m/z 371.1234)が溶出したとして、その強度が成分①のイオンより小さければ、m/z 371.1234はプリカーサーイオンとして選択されないことになってしまいます。

これを回避する方法の1つがDynamic Exclusionで、一度プリカーサーイオンとして選択されたイオンを一定時間候補から外す(Excludeする)という機能です。他の方法としては、1度に選択させるプリカーサーイオンを複数設定することです。上記の例であれば、Dynamic Exclusionの設定をしていなくても、1度に選択させるプリカーサーイオンを、強度の高い順に2つと設定しておけば、成分①,②両方のイオンのプロダクトイオンスペクトルが取得されます。

DDA-2 

2 Dynamic Exclusionの設定

 

1度に選択させるプリカーサーイオンの数は、クロマトグラムのピーク幅と装置のスペクトル取得速度に関係してきます。1つのマススペクトルに対して、閾値を超えたイオンの中からプリカーサーイオンが選択されますので、選択させるプリカーサーイオン数を例えば10と設定すれば、マススペクトルを取得した後、(閾値を超えた)強度の高い順に10個のプリカーサーイオンのプロダクトイオンスペクトルを取得し、その後新しいマススペクトルを取得することになります。スペクトル取得速度の遅い装置でこのような設定をしてしまうと、10個のプロダクトイオンを取得している間に次の成分がカラムを溶出してイオン源に導入されてしまうというような問題が起こってしまいます。

 

また、同じプリカーサーイオンを何回続けて選択するかという設定もあります。これを余り多く設定するのは意味がないと思います。

 

Exclusionの設定は、Dynamic Exclusion以外にも、予めプリカーサーイオン選択の候補から外すm/z値をリストとして登録しておく機能があります。これは、溶離液への添加剤や、溶離液や容器へのコンタミの影響等によって高強度のバックグラウンドイオンが常に観測されている状況で使用します。高強度のバックグラウンドイオンが常に観測されている場合、プリカーサーイオンを自動選択させるための閾値は、そのバックグラウンドイオンの強度より低く設定する必要があり、そうすると、そのバックグラウンドイオンが優先的にプリカーサーイオンとして選択されてしまいます。Exclusionリストに予め登録しておくことで、不要なプリカーサーイオンが選択されてしまうリスクが軽減されます。

 

Dynamic Exclusionで一度プリカーサーイオンとして選択されたイオンを一定時間候補から外す機能については、その時間設定が重要です。理由は2つ。1つ目の理由は、異性体が存在する可能性です。異性体は、基本的には全く同じm/z 値のイオンが生成するので、候補から外す時間を長くし過ぎると、その間に異性体が溶出し、そのイオンがプリカーサーイオンとして選択されなくなってしまいます。天然物や代謝物には異性体が多いので、この設定は重要です。2つ目の理由は、閾値との関係なのですが、閾値を低めに設定しておくと、クロマトグラムの立ち上がりの強度がまだ低いところでプロダクトイオンスペクトルが取得されます。プリカーサーイオン強度が十分でないため、S/Nの低いプロダクトイオンスペクトルが得られてしまう可能性が高いです。できれば、ピークトップの付近でプリカーサーイオンが選択されるのが理想的です。このような場合には、クロマトグラムピーク内で複数回同じプリカーサーイオンが選択されるように、候補から外す時間を短く設定することが有効です。ソフトによっては、ピークトップ付近でプロダクトイオンスペクトルが取得されるようなパラメーターが供えられたものもあります。

 

高分解能質量分析計を用いる場合、小さなm/z値の差を識別することが出来ますので、Dynamic Exclusionの設定において、一度選択されたプリカーサーイオンと近いm/z 値のイオンが観測された時、それらを同一のm/z値と見なすか否かという設定も必要です。そのためのWindow幅も通常Dynamic Exclusionのパラメーターにあります。この設定は、QqQ-MSIT-MSにはありません。

 

さらに、低分子化合物のプロトン付加分子や脱プロトン分子等においては、通常モノアイソトープピークの強度が最も高く、次いで13C1つ入ったピーク、13Cが2つ入ったピークという強度順にイオンが観測されます。殆どの場合、モノアイソトープピークのプロダクトイオンが取得されれば十分であり、13Cが入った同位体ピークのプロダクトイオンスペクトルは必要ありません。しかし、例えば成分A由来のイオンの同位体ピークがプリカ―サーイオンとして選択されてExcludeリストに入った後、成分Bがすぐ後ろに溶出し、そのイオンの強度が成分Aの同位体ピークより小さい場合、成分Aの同位体イオンのプロダクトイオンスペクトルが取得されてしまいます。このような状況は、低分子化合物の中でも比較的分子量が大きい(炭素数の多い)化合物が成分Aである場合に起こり易いと言えます。また、この問題を回避するため、同位体ピークは無条件で除外するという設定が可能なソフトがあります。

 

DDAで試料中の含有成分を如何に洩れなく拾ってプロダクトイオンスペクトルを取得するかは、Dynamic Exclusionの設定によるところが大きいと言えますが、どんなに上手く設定しても、必ず全ての成分由来のイオンをプリカーサーイオンとして選択させプロダクトイオンスペクトルを得られる訳ではありません。DDAは有用な機能であり、私自身仕事で頻繁に使いますが、DDAにも弱点があり、それに対応するための他の機能があるので、別の機会に紹介して考えてみようと思います。

 

LC/MSに関するコンサルティングや技術指導のご依頼は複数頂いておりますが、中でも高分解能LC/MS/MSを用いた未知化合物の構造推定に関する技術指導は最もご好評頂いております。ご依頼等は、ホームページの問い合わせからお願いします。

 

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