2018年11月07日

マススペクトルを得るための測定モードは必ずしもスキャンではない!

今回から、質量分析計本体について、色々と書いてみたいと思います。

 

現在最も普及している質量分析計は、GC/MS, LC/MS, その他全て合わせても、四重極質量分析計(quadrupole mass spectrometer, Q-MS)でしょう。Q-MSの動作原理は、様々な書籍で紹介されているのでご存知の方が多いと思いますが、簡単に解説します。

1Q-MSの概念図、図2に質量(m/z)分離の原理を示します。

 

QMS概念図-2

図1 Q-MSの概念図

 

QMS原理

図2 Q-MSにおけるm/z分離の原理

 

1に示すように、4本の電極のそれぞれ対角線の対の2電極に対して同極性の直流電圧と高周波電圧を印可し、周期的に極性を変化させることで、イオンは4本の電極内に閉じ込められ、イオン源から検出器までを振動しながら飛行します。図2に示されている三角形様の図は、安定領域と言って、直流電圧と高周波電圧の大きさにおいて、どの位の電圧の時にどの大きさのm/zのイオンが安定に四重極内に存在出来るかを示しています。安定振動領域にあるイオンは検出器へ到達し、安定振動領域にないイオンは途中で四重極外へ排出されます。また図2に示すように、直流電圧と高周波電圧の比が一定になるように電圧を変化させることで、イオンのm/z を分離する事が出来ます。

ここで、図2に示した両電圧を、走査直線上に小さな電圧から大きな電圧に連続的に変化させると、小さなm/zのイオンから順番に四重極を通過して検出器に到達し、マススペクトルが得られます。電圧を連続的に変化させる事を走査(スキャン)と言います。

一方、GC/MSLC/MSで定量分析を行う場合、選択イオンモニタリング(selected ion monitoring, SIM)と言う測定法が用いられます。これは、特定のm/z値のイオンだけ四重極を通過させる測定法なので、図2に示した両電圧変化は段階的(不連続的)に行われます。

LC-MSに飛行時間質量分析計(time of flight mass spectrometer, TOF-MS)が用いられるようになる前までは、Q-MSの他にもイオントラップ質量分析計(ion trap mass spectrometer, IT-MS)や磁場形質量分析計(sector-MS)など、マススペクトルを得るためには電圧走査(スキャン)を行っていたため、今もその名残で、質量分析計の原理に関係なく、マススペクトルを得る測定モードを“スキャン”と言ってしまう人を見かけます。TOF-MSでは、パルス的に飛び出したイオンが検出器に到達するまでの時間によってイオンのm/zを分離するため、マススペクトルを得るために電圧走査(スキャン)を行いません。

先日、質量分析関連のイベントに参加した時、あるメーカーのアプリ担当(結構なベテラン)の方が、TOF-MSに対してスキャンと言う言葉を使っていました。とても残念に思いました。

Q-MS, IT-MS, sector-MSは、マススペクトルを得るために電圧走査(スキャン)をしますが、TOF-MSやフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(Fourier transform ion cyclotron resonance mass spectrometer. FTICR-MS)は、マススペクトルを得るために電圧走査を伴いません。

スキャン⇔SIMと言う概念が存在しない質量分析計もあるので、マススペクトルを得るため測定モードを安易にスキャンと言うのは避けた方が良いです。特にメーカーの方には、専門家として、原理や理論に基づいた正しい言葉を使うように気を付けて頂きたいです。

 

 

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エムエス・ソリューションズ株式会社
代表取締役 髙橋 豊
E-mail: tyutaka@ms-solutions.jp
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