2021年2月

MSMS(タンデム質量分析)の動作や用語 その1

MS/MSは、日本質量分析学会が発刊しているマススペクトロメトリー関係用語集によれば、以下の様に定義されています1)

「一段目の質量分析においてプリカーサーイオン(前駆イオン)を選択し、イオンを解離させた後に二段目の質量分析でそのプロダクトイオンのm/z分離を行い検出する技法、およびそれらの結果を利用する研究分野。タンデム質量分析と同義語。

1:技法には、プロダクトイオンスペクトル、プリカーサーイオンスペクトル、コンスタントニュートラルロススペクトル、コンスタントニュートラルマスゲインスペクトルを取得する手法、および選択反応モニタリングがある。

2:二つ以上の質量分析部を備えた装置を用いる空間的タンデム質量分析(tandem mass spectrometry in space)およびイオントラップタイプの装置を用いる時間的タンデム質量分析(tandem in time)がある。」

プロダクトイオンスペクトルを取得する方法は、プロダクトイオン分析あるいはプロダクトイオンスキャンと言い、注1に記載した複数の技法を含め、最も汎用されている。その理由は以下の2つであろう。

  1. タンデム質量分析計には複数の種類があるが、プロダクトイオンスペクトルは、全ての装置で取得可能である事。
  2. プロダクトイオンスペクトルを取得する測定法が、定性・定量分析の両方に有用である事。

ここでは、プロダクトイオンスペクトルを取得する方法に注目して、用語や動作などを整理してみたいと思います。この方法は、例えば三連四重極質量分析計(QqQ-MS)で測定する場合、Q1で特定のm/z値のプリカーサーイオンを選択して、q2のコリジョンセル内で開裂させ、生成したプロダクトイオンをQ3m/z分離してプロダクトイオンスペクトルを取得します。そのイメージを図1に示します。また、Q-MSで四重極に印加する電圧とイオンの安定振動領域の関係を図2に示します。

 

QqQ produvt ion scan QMS 安定振動領域

 

Q1でプリカーサーイオンを選択する時は、Q1の電圧は図2中の電圧走査線上の何処か一点に固定された状態(プリカーサーイオンが複数の時は段階的に変化する)です。そしてQ3では、印加される電圧は、図2の電圧走査線に沿って走査(スキャン)されます。この様に、MS2QqQ-MSではQ3)が電圧走査タイプの質量分離部の場合、プロダクトイオンスペクトルを取得する測定法は、プロダクトイオンスキャンと呼ばれます。

一方、四重極質量分離部と飛行時間質量分離部のハイブリッドタンデムMSであるQTOF-MSでプロダクトイオンスペクトルを取得する方法では、プロダクトイオンスキャンと言う用語は、原理的には正しくありません。何故なら、QTOF-MSでプロダクトイオンのm/zを分離するのはTOFだからです。QTOF-MSによるプロダクトイオンスペクトル取得は、以下の様な手順になります。QTOF-MSの装置概念を図3に示します。

QTOF-MS

 

  1. Q(MS1)によるプリカーサーイオン選択
  2. qによる衝突誘起解離
  3. TOF(MS2)によるプロダクトイオンのm/z分離(プロダクトイオンスペクトル取得)

qで生成したプロダクトイオンは、TOFのプッシャー領域で加速電圧を与えられて飛行管に打ち出されます。そして、イオンのm/zに応じた飛行時間の差によって分離され、プロダクトイオンスペクトルが取得されます。印加される加速電圧は一定(装置の設計によっては異なるが)であり、走査はされない。TOFによるスペクトル取得は電圧走査を伴わないため、その操作はスキャンとは呼べない。よって、QTOF-MSによるプロダクトイオンスペクトル取得は、プロダクトイオンスキャンではなく、プロダクトイオン分析が適しています。

プロダクトイオンスキャンと言う用語が使えるのは、MS2が電圧走査タイプの装置なので、QqQ-MSIT-MS、二重収束および4Sector-MS、などです。また、プロダクトイオン分析が適しているのは、QTOF-MSQ(LIT)-OrbitrapFTICR-MS、などです。

 

たかが用語、されど用語。

 

QTOF-MSに対してプロダクトイオンスキャン、スキャンスピードなど、原理的に正しくない用語が付かれている例が散見されますが、用語は、原理に基づき正しく使いましょう。

 

引用文献

1) マススペクトロメトリー関係用語集第4版(WWW版)、日本質量分析学会用語委員会、p. 55http://www.mssj.jp/publications/pdf/MS_Terms_2020.pdf.

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