2021年5月

LC/MSで観測される偶数電子イオンのフラグメンテーション-1

質量分析計特にGCやLCとのハイフネーション装置であるGC-MSやLC-MSは、現在定量分析に多く用いられています。しかし、質量分析は元々は定性分析のための機器分析法であり、そのためにはマススペクトル特にフラグメントイオンの解析は重要です。

 

電子イオン化(electron ionization)については以前のブログに書きましたが、GC/MSに用いられているイオン化法であり、そのマススペクトルで観測されるフラグメントイオンの解析については、「有機マススペクトロメトリー入門」を始め幾つかの良書があります。また、EIで得られたマススペクトルは、NISTやWilleyなどの豊富なマススペクトルライブラリーによって、その解析の難易度は比較的低く感じられます。実際には、そんな事はないのですが...

EIでは、気化した試料分子に熱電子を照射し、分子から電子が1つ脱離した分子イオンや、それが断片化したフラグメントイオンが観測されます。分子は中性状態で必ず偶数個の電子をもつため、分子イオンは奇数個の電子をもつ奇数電子イオンです。

 

一方、LC/MSに用いられているエレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, ESI)や大気圧化学イオン化(atmospheric puressure chemical ionization, APCI)で生成するイオンは、分子にプロトンやナトリウムイオンが付加した、あるいは電子からプロトンが脱離したイオンなどが主であり、これらは中性分子と同じ電子状態即ち偶数電子イオンです。偶数電子イオンは中性分子と同じ電子状態であるため安定で、定性分析のためにはMS/MS(プロダクトイオン分析)が用いられます。LC/MS/MSにおけるプロダクトイオン分析には、低エネルギー状態での衝突誘起解離(collision induced dissociation, CID)が殆どの場合に用いられます。奇数電子イオンと偶数電子イオンとは、電子状態が異なるため、開裂の仕方(フラグメンテーション)も異なる場合があります。

 

今回から何回かに分けて、偶数電子イオンのフラグメンテーションについて、低エネルギーCIDを中心に解説します。フラグメンテーションは、分子(イオン)内の結合の開裂によって起こります。共有結合(単結合)は電子2個によって成り立ち、結合の開裂とは即ち電子の動きです。+の電荷をもつ正イオンの場合、フラグメンテーションは、-の電荷をもつ電子が正電荷に向かって動く事により起こります。

 

よく観測される例を見てみましょう。図1は、アミノ酸の一種であるアルギニンのプロトン付加分子([M+H]+, m/z 175)をプリカーサーイオンとしたプロダクトイオンスペクトルです。測定に用いた装置は、Q-Exactiveです。

 

Arg prodact ion spctrum

図1 アルギニンのプロトン付加分子のプロダクトイオンスペクトル

 

1中のm/z 158.0916イオンは、プリカーサーイオンとのm/z差が約17なので、アンモニア(NH3)の脱離に相当します。このフラグメンテーションは、図2のように説明する事ができます。プロトンが付加する位置は、非共有電子対をもつ原子が最も可能性が高く、プロトン親和力が支配的です。アルギニンには複数の窒素と酸素がありますが、2つの1級アミノ基の窒素が最も高いプロトン親和力をもつと考えて良いでしょう。アミノ基にプロトンが付加し、その正電荷に向かって隣の結合の電子が2つとも動く事により、アミノ基は中性のアンモニアとして脱離し、根元の炭素は電子が1つ足りない状態になるため正電荷をもちイオンになります。1級アミノ基は2つあるため、アンモニアが脱離してm/z 158イオンが生成するプロセスは、図2に示す両方の可能性があります。この種のフラグメンテーションは、水酸基にプロトンが付加してH2Oが脱離するプロセスも同様で、頻繁に観測されます。

 

Arg mz175-158

2 アルギニンのプロトン付加分子からm/z 158イオンが生成する推定プロセス

 

 

 

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ESIにおけるイオン化抑制とPESI

以前書いたエレクトロスプレーイオン化(electrospray ionization, ESI)におけるイオン化抑制に関する記事について、「エネルギー供給を絶たれた帯電液滴」からのイオン生成プロセスが、イオン化抑制の原因になると言う解説をしました。今回はその続編、以前の解説を補足する記事を書いてみます。

 

山梨大学の平岡先生が開発された「探針エレクトロスプレー」という技術があります。そのイオン生成機構が、そのまま前回解説の補足になります。探針エレクトロスプレーは、英語ではprobe electrospray ionizationとなり、PESIと略されます。PESIについては、平岡先生の総説1)をご参照ください。ESIは、コンベンショナルからナノまで、サイズによって量は大きく変わりますが、キャピラリー先端部分では試料溶液は連続流体として供給されています。一方PESIは、探針の先端に試料溶液を付着させ高電圧を印加する事で、探針の先端に形成されたテイラーコーンから直接イオンが生成するイメージです。コンベンショナルESI、ナノESIPESIの比較と、PESIに用いた探針先端のSEM画像を図1に示します。また、PESIの構造と動作の様子を図2に示します。

探針に付着する試料量は数pLと極微量であるため、試料に対して電圧(エネルギー)が供給される確率はコンベンショナルESIやナノESIに比べて極めて高く、テイラーコーンから生成する帯電液滴のサイズは極小さく電荷密度は非常に高くなります。そのため前述したように、帯電液滴を経ずに直接生成するイオンも存在すると考えられます。

 

PESI-1

1 コンベンショナルESI、ナノESIPESIの比較と、PESIに用いた針先端のSEM画像1)

 

PESI-2

2 PESIの構造と動作1)

 

PESIでは、通常のESIの様に試料溶液が供給し続けられる事がないため、高電圧を印加し続ける事により、試料溶液は帯電液滴となってあるいは直接イオンとして、探針表面から放出され徐々にその量は減少していきます。通常のESIでは分析種のイオン化抑制の原因となる物質が試料溶液に含まれているとしても、探針に電圧を印加し続ける事により、イオン化し易い物質が先にイオン化し、その後残りの物質がイオン化される、という現象が起こります。それが顕著に示されている例を図3に示します2)。これは、界面活性剤であるトリトンX100とタンパク質であるシトクロムCの混合溶液を、ナノESIPESIで測定した時のマススペクトルです。濃度は、トリトンXの方が100倍高い条件です。界面活性剤はイオン化抑制の原因物質の一つなので、この試料はトリトンXの混在によってシトクロムCのイオン化が抑制されて検出されない事を想定したものだと思います。そして、その想定通り、ナノESIではトリトンXのイオンのみが検出され、シトクロムCイオンは検出されていません。一方PESIのデータでは、最初はトリトンXのイオンのみが検出されていますが、その後も探針に電圧を印加し続けるとシトクロムCのイオンが検出されるようになり、最終的にはシトクロムCのみのイオンが検出されています。この現象は、PESIでは探針に電圧を印加し続ける事によってシーケンシャルなイオン化が起きている事を示しています。また、以前の記事に書いた通り、ESIにおけるイオン化抑制の原因が、エネルギー供給を絶たれた帯電液滴からのイオン生成プロセスにある事も併せて示しています。探針に試料を付着させて電圧を印加した状態を、ESIで生成する帯電液滴に見立てます。図3に示したPESIのデータにおいて、上段のトリトンXのみが検出されている状態は、ESIにおいて生成したエネルギー供給が絶たれた帯電液滴からイオンが生成している様子と同じです。PESIにおいても、この状態で電圧印加をやめてしまえば、その後シトクロムCが検出される事はありません。トリトンXのイオン化によって、帯電液滴内の過剰電荷が失われてしまうからです。

ESIにおいても、テイラーコーンから放たれた帯電液滴に対して、追加でエネルギー供給をする事が出来れば、原理的にはイオン化抑制は低減されると考えられます。Watersが開発したUniSpray TMにはその効果があると期待していたのですが、今のところそのような効果は見られないとのことです。

 

PESI vs NanoESI

3 ナノESIPESIの測定データ比較2)

 

文献

1) 平岡賢三、分析化学、59, pp. 95-105 (2010).

2) 平岡賢三、2013年度第二回TMS研究会講演会要旨集 2013_2_05_Hiraoka.pdf (tms-soc.jp)

 

 

 

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カブトムシの常識、埼玉の小6が覆す 世界的雑誌に論文

朝日新聞デジタルに掲載されていたこの記事「カブトムシの常識、埼玉の小6覆す 世界的雑誌に論文」、読んで嬉しくなりました。

小学校4年生の夏休みの自由研究から始まったカブトムシの観察記録が、生態学の世界的なトップジャーナルに掲載される研究にまで発展したと言う記事です。

子どもの理系離れが言われるようになって久しい昨今、こういう子どもがどんどん育って欲しいですね。

 

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軟X線重畳ESIイオン源の論文

 

もう4年前になりますが、古巣の人達と一緒に実験した結果を質量分析総合討論会に発表しました。

論文書かなければと思いつつ、なかなか手を付けられませんでしたが、最近になってようやく書き始めました。

もう少しかかりますが、書きあげて投稿までもって行きます。

こうやって宣言すれば、途中で止められなくなりますからね!

 

で、内容はESIに軟X線を重畳照射すると、ある種の化合物でイオン強度が増加すると言う内容。

その理由をどう考察するか、色々と考えているところです。因みに、大分前に特許も出願済みです。

データを1つだけ紹介します。試薬はアントラキノンです。

 

ESI-X benzanthraquinone

 

上段がESIで測定したマススペクトル。構造的にはESIに向かない化合物なので、シグナル強度は低く、やっとイオンげ検出されたレベル。中段が軟X線重畳ESIのデータ。プロトン付加分子の強度は約40倍に増加しています。下段は軟X線のみ、ESIと同程度のイオン強度です。

 

実用化についても、何とかしたいと思っています。ご興味あれば、ご質問などお待ちしています。

 

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LC/MS定量分析専門書6月に発刊予定

単独で執筆中のLC/MSによる定量分析の専門書が、6月に発刊予定で、出版社のホームページに案内が掲載されました。

目次を見てもらうと分かる通り、定量分析と言いながら、定性分析的な内容も充実させました。

早期申込割引があるそうなので、ご利用頂ければと思います。

 

 

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ロードバイクのサドル交換

仕事に使っているロードバイクのサドルを交換しました。

New old

左が新しいサドル、右が古いサドルです。

少し前にバーテープやタイヤもブルー系にしていたので、今回サドルにも青を入れて更に統一感が増して良い感じになりました。

 

ところで、この古い方のサドルは、大分前にフランスに出張に行った時のお土産で買ってきた、懐かしい物なのです。

以前勤めていた会社でヨーロッパに出張に行った時、フランスに1週間ほど土日を挟んで滞在する機会がありました。その頃から趣味でロードバイクには乗っていたので(トライアスロンももう始めていたかな?)、フランスの事務所の人に、土日にロードバイクに乗りたいと我儘を言ったら、何と準備してくれました。事務所の人のバイクを貸してくれました。ホテルの倉庫みたいな部屋で預かってくれて、毎朝事務所までロードバイクで行って、それから現地の人と一緒に仕事に出かけました。そして土日は、一人で準備してくれたバイクに乗って色々な場所に観光に行きました。フランスと言えばツールドフランスが有名で、ロードバイクを乗る人にとっては憧れの地ですよね♪

 

フランスに行ったのはその時が初めてでしたから、ロードバイクに乗って動けたのは最高でした。

20年以上も使って、大分くたびれたので交換はしましたが、思い出のあるものなので、捨てずにとっておこうと思います。

 

 

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